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第332話「うれしいこと」*大翔
翌朝。
……起きたら奏斗が、ベッドに居なかった。
時計を見るとまだそこまで遅いわけじゃない。でもいつもはオレのが早く起きて、寝てる奏斗を見ていることが多いから、なんとなく、起きれなかったか、とただぼんやりと思った。昨日、なかなか眠れなかったからなと思い出し、考えていたことも舞い戻ってきてしまった。
「――――……」
額に手を置いて、瞳を閉じ、ゆっくりと息をついた。
今、恋人でもないのに、そういうことをしてる関係をセフレだって言っただけで、別に、オレがそういう風に奏斗を扱っていると思ってる訳じゃないだろうとは、思う。
――――……どうしようかな。今日から。
距離感が、難しい。
奏斗のことが大事だと思うのは、本当なのに。伝わってない、のかもな。
……最初の抱き方がまずかったのかな。あれから始まって……。
和希のことだって何にも綺麗になってないのに、体だけ繋いで。
……でも、奏斗が他の奴のところに行くのは、絶対嫌だし。
あー。もう ……どうすっか。
とりあえず、起きて、考えるか。
……奏斗、シャワー浴びたかな。
ゆっくり部屋を出る。バスルームには居ないし、リビングにも居ない。
……自分の部屋、帰ったのか。
スマホを取って、奏斗の画面を開く。
なんて入れようか考えて、なんだか何も適当なものが思いつかなくて、テーブルに置きなおした。
とりあえず、シャワー浴びよ。頭はっきりしねーし。
そう思ってバスルームに向かう。少し熱めに設定して、シャワーを出した。
「――――……」
目が覚めていく間に、色々考える。
奏斗が色々あって、特にこういうことで考え方が後ろ向きなのは知ってる。
……いちいちそんなのでダメージ受けんな。バカか、オレ。
できるだけ側にいて。
……できるだけ、笑顔を見てたい。
できるなら、変なトラウマを、跳ねのけさせられたらいい。
オレがしたいのは、それだ。
そこまで考えてやっとすっきりして、シャワーを止めた。
朝飯作るからって、連絡しよう。そう思いながら身支度を整えて、髪を適当に乾かしてからリビングに入ると。
「あ。おはよ」
「――――……」
キッチンの方で奏斗が立ってて、オレの方を見て笑う。
「奏斗……」
「ん? あ、ごめん、勝手にキッチン借りてる」
「いいけど……え、さっき居なかったよね?」
「あ、うん。シャワーと着替えと、あと、コーヒー淹れたりしてきた。あと、ごめん、玄関にあった鍵、借りた」
「いい、けど……鍵あげた位だし」
「それオレの家にあったからさ」
「――――……」
部屋戻ったのに、自分から帰ってきてくれたんだなと思うと、なんだかすごく。……気持ちが、浮つく、というか。
……ああ、なんかオレ、すげー嬉しいのかも、これ。
なんだか、言葉が出てこないまま、奏斗の側に歩み寄る。
コーヒーを入れてるのかと思ったら、カウンターには皿が並んでいて、気付いて振り返った時、ちょうどトースターがチンと音を立てた。
「あ、焼けた。ちょうどよかったね」
「――――……」
チーズトーストを取り出して、包丁で三角に切って皿に並べてから、黙ったままだったオレを振り仰ぐ。
「四ノ宮みたいに凝ったの作れないけど……良いでしょ?」
「ん。……つか、なんかすげー嬉しいし」
言うと、きょとん、という顔をした後、ふ、と微笑んで。
「チーズのせただけだよ」
クスクス笑う。
そうじゃないけど。
別にチーズトーストが嬉しいとかじゃなくて。
……一回帰った奏斗が、自分からオレんちに戻ってきて、一緒に食べる朝ごはん、作ってくれてるのが、嬉しいんだし。
ていうかオレ、こんなことが、こんなに嬉しいのか。
と、自分で驚く。
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