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第346話「関係ない?」*奏斗
部屋に戻った四ノ宮が、スマホを手に取って、電話をかけ始めた。
「あ、オレ。うん。……あのさ、親父に奏斗のこと、なんか言った?」
相手は瑠美さんか。
邪魔もできないので、とりあえず席に座った。
「……ん。……うん。そんだけ? 他は?」
相槌を打ちながら聞いていた四ノ宮は、割とすぐ電話を切って、椅子に座りながらオレに視線を向けた。
「姉貴が言ったのは、奏斗に会って、オレと潤が懐いてたってことと、オレの先輩ってことくらいだって。あとスーツ似合いそうだったってことを言ったみたいだけど」
「あ、そうなんだ……」
……って、まあそれくらいしか、瑠美さんは知らないもんね。
「って、オレが懐いてたって言い方どうなのって感じだけど……でも、それくらいしか言ってないってことは、何か勘づいて来たって訳じゃないのか……」
んー、と考える素振りをしてから、四ノ宮は、まぁいいか、と笑いながら、椅子に座った。
「とりあえず、やっと居なくなったし。焼こ?」
「ん」
頷いて、四ノ宮の手が液を流し入れるところを見ていたのだけれど。
なんだか、急に可笑しくなって、ぷ、と笑い出してしまった。
「奏斗、なに?」
四ノ宮、最初ちょっときょとんとしてたけど。
「もーよく分かんないけど……なんか、変な空間だったね」
笑いながらそう言ったら、少しだけ間を置いて、四ノ宮もクスクス笑い出す。
「ほんと。ごめん、来ないでって入れるの遅くて」
「ほんと、もっと早く送って」
「ごめん。ちょっと、うろたえててさ……」
「まあ、いいけど……」
クスクス笑いながら、やっとなんだか息がちゃんと吸えた気分。
たこ焼きの具材を入れながら、四ノ宮に視線を向けた。
「なあ、買ったの? このプレート」
「そう。ほんとはもっと、目つむって来させて、ばーんと見せようと思ってたのにさー。まさかあんな感じで見せることになるとは思わなかった」
面白くなそうに言う四ノ宮に苦笑い。
「でも、うわーって思ったよ。買ってきたのか聞きたかった」
「今日買ってきた。持って帰ってくんの結構重かった」
「だろうね。って、そういえば、なんでたこ焼き?」
「なんかこういうの焼くの、好きそうかなと思って。また今度は焼肉とかできるしさ」
オレが好きそうかもって思ってって。ただそれだけで、こんなもの買ってわざわざ用意してたんだ、と思うと。
変な奴。とか思うのだけれど。でも。
「ありがと。……こういうの、楽しい」
「ん。良かった」
頷きながら笑う四ノ宮に「たこ焼き回すの初めてだし」そう言うと、ますます可笑しそうに笑い出す。
「すっげー回してたもんね、奏斗。くるくるくるくる」
「……あれは、あの空間がなんか謎すぎて、回すだけに専念してただけかも」
「ああ、そうなの? 道理で。すげー面白いなと思って見てた」
はは、と笑ってから、四ノ宮は、ピックを手に持つ。
「まさか葛城と一緒にたこ焼き回すはめになるとは……」
「……そうだよね。思わないよね」
ほんと謎な空間だった。と改めて思いながら、ピックを手に取って、たこ焼きを丸めにかかると。ふ、と視線を感じて、顔を上げる。
まっすぐ見つめてくる四ノ宮は、なんだかちょっと困った顔をしていて、「何?」と首をかしげると。
「……見合いとか、しないからね。オレ」
何だかとっても、疲れたように、苦笑する。
「親父は、見合いしてよかったと思ってるらしーから、ああ言ってくること多いんだけど」
「そうなんだ」
「する気ないからね」
「……」
ふーん、と、小さく頷く。
「これを奏斗に言うと、また、関係ないって言われそうだけど」
小さなため息とともに、なんだか不満げに口をムッとさせてるけど。
「でもしないから」
ふーんと頷きながらまさに今、「オレには関係ないことのはずなんだけど」と思ってたのは……言わない方がよさそうな顔を、している、気がする。
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