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第381話「拍車が」*大翔

 そのまま扇風機で火照りを冷やし終わって、ドライヤーをかけていた奏斗が電源を切ると、その隣の椅子に相川先輩が座った。 「あ、そういやユキ、虫刺されは?」 「ん、さっきからすごく痒い」 「どれ?」  相川先輩が立ち上がって、奏斗のうなじを見てる。  オレは、備え付けの水を飲んでいたのだけれど。  ……なんか。ほんと相川先輩には、素直っていうか。可愛い感じで話すよなぁ、とちょっと不満。  相川先輩に、変な気がないのだけはなんだかすごく分かるし、どちらかというと、相川先輩って、いつでも奏斗を守ろうな感じの人なので、オレもそんなに敵意は沸かない。が。しかし。 「どれどれ? 見せてみ?」  チャラい奴はお断りなんですが。  と、オレがこっちで眉を寄せているのに気づかず、奏斗は冴島さんにも、ここら辺です、とか言って見せてる。 「ああ、ほんとだな」 「ぽつんてなってますよね」  苦笑いの冴島さんと相川先輩に、奏斗は、「受付で薬貰えるよね?」と呟いてる。 「ああ。聞いてみたら」 「うん」  立ち上がった奏斗から一瞬目を離した瞬間。 「ひゃ……!!」  変な声が上がって、とっさにそっちを見ると。  奏斗が、口を押えて、びっくりした顔をして冴島さんを見ていた。 「……すっげー反応」  冴島さんが苦笑してた。 「悪い、すっげーウエスト細く見えてさ。何センチくらいだろって思わず」 「ユキ、くすぐったいの弱いんで、触んないであげてください」  相川先輩がそんな風に言って、奏斗に、「大丈夫?」と苦笑い。 「びっくりしただけ。冴島さん、オレ、くすぐられるの弱いんで、ほんとやめてください」 「悪かったって。そんなヤバい声出すと思わなかった」 「……」  ジト目の奏斗に、「だからごめんって」と、苦笑いの冴島さん。 「なあ、にしても、ウエスト何センチ? ほっそくねえ?」 「ほっといてください、もう」  奏斗は、むー、と膨らんでいるが。  もっと怒っていいぞと、心の中で思ってしまう。  あんな声ださせて。かなりかなり、ムカつく。  オレの中では、要注意人物から、さらに上の、超要注意人物、なんなら排除対象に格上げされた。  ……つか……。  もしかして、さっき、オレがちょっかい出してたから、敏感、だったり……ありえる。てことは、オレが悪いのか。  なんか、頭痛い。 「そろそろ戻ろうぜ。宴会だもんな」 「そうですね」  冴島さんの言葉に相原先輩が応えて、皆片付けて大浴場を出た。 「温泉良かったな~」  隣で佑がしみじみ言ってる。 「そーだな」  頷くけど、頭ン中は別のこと。  ……なんか、中途半端にキスして触れたりしたら、余計に奏斗から離れてるのが嫌だって思いに拍車がかかったような気がする。 「あ、オレ、薬貰ってく。すぐ行くから先に行ってて」 「んー」  前を歩いていた奏斗が、受付のところでそう言って、離れていく。 「ぁ、オレもちょっと行ってくる」 「んー」  なんとなく頷く佑に手を振って離れて、奏斗の後ろを歩く。 「先輩」 「――――……」  振り返った奏斗が、ため息。 「……失礼。顔見て、ため息つかないでよ」 「……何?」 「薬。塗ってあげるから」 「塗れるし」 「見えないでしょ」  困った顔をしながらも、奏斗は、受付に置いてあるチャイムを鳴らす。奥から人が出てきて、無事に薬を借りれた。返すのは明日でいいですよ、と言われて受け取った奏斗に、オレは手を差し出した。 「ん、貸して」  少し間はあったけど、諦めたみたいで、奏斗はオレに薬を渋々渡した。  少しだけ指に薬を出して、奏斗のうなじの赤いところに塗ってあげる。 「……ありがと」 「ん」 「あんま近づくなって、言ってんじゃん」 「……分かってるから、あんまり寄ってないでしょ。帰ろ?」  仕方なさそうに奏斗が頷いた時。 「あ。大翔くん」 「あ、ユキも居る」  里穂と佐倉先輩が、大浴場の方から、歩いてきた。 「二人も今お風呂出たとこ?」  佐倉先輩が奏斗に聞く。  なんとなく佐倉先輩が奏斗の隣に並んだのもあって、オレの隣には里穂が並んだ。 「虫刺されの薬貰ったとこ。翠たちは今出てきたの?」 「うん。そろそろ宴会も始まっちゃうよね」 「ん。そだね。まあでも、今度は飲み会だから。少しくらい遅れても大丈夫そうだけど」 「先輩達結構飲むからね~。いつもは帰らないといけないけど今日は好きなだけ飲みそう……」  佐倉先輩は、苦笑い。 「あたしたちも早く飲めるようになりたいね」 「翠、強そう」 「ユキ、なんか弱そうね?」  前で並んで、楽しそうに笑ってるのを何となく聞きながら、部屋まで歩く。     (2023/8/13)

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