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第380話「可愛いけど」*大翔

 まだオレ達の時間はしばらくあるから、よその団体は入ってこないし、今は脱衣所で奏斗と二人だった。二人きり、久しぶりな気がする。といっても半日くらいだけど。  体を拭いて、下着と部屋着のズボンをはくと、奏斗はバスタオルを肩にかけて、そのまま髪の毛をわしゃわしゃ拭いて、ふ、と動きを止めた。 「……あのさぁ」  髪が乱れたまま、オレを見上げるのは、なんかほんとに可愛い。 「四ノ宮って……本気で心配してんの?」 「ん。してる」 「――――……」 「本気で何なんだ、みたいな顔やめてよ」  苦笑しながらそう言ったら、奏斗は、「バカだなーと思って」と肩を竦める。 「……奏斗はさぁ、すごく可愛いんだから、気を付けて」 「さらっと可愛い言うな。……つか、男だから、平気だよ」 「男でも。気を付けて」  またチラ見される。もう何も言う気はなくなったみたいで、奏斗はバスタオルを置くと、そのまま、鏡の前に立った。鏡で背中を見ようとしてるみたいな。  上半身はまだ裸のままの綺麗なウエストラインに、抱いてる時に、触れてる感覚がよみがえる。あそこ押さえつけて、中入れると――――……すげー喘ぐんだよな。めちゃくちゃ可愛い……と、そこまで考えて、ヤバすぎて、一度頭を振る。 「……何してンの?」  ヤバい想像を飛ばしながら、奏斗に聞くと。 「なんか、首んとこ、虫かなあ。かゆくて」 「宿の人に薬貰う?」 「うん。あとで貰おうかな……」  オレはTシャツを着ながら、奏斗の隣に。 「どこ?」 「ここらへん……? 自分じゃ見えない」  うなじに少しかかってる髪の毛を避けると。ぽち、と赤くなってる。 「ああ。なんか赤くなってるね」 「デッカい?」 「いや。ちっちゃいよ。何で?」 「だってなんかすごい痒いんだよね……すごく赤くなってるのかなって思って」 「そんな痒いの?」  苦笑い。  ――――……首筋が、綺麗で、触れたくなる自分にも困る。  今、出てきても、すぐ見えない位置だよな。  オレは、ふ、と奏斗の頬に触れた。 「……」  きょと、と大きな瞳がオレを見上げる。 「キスしていい?」 「嫌。無理」  一瞬で眉が寄って、ぷい、と逸らされそうになるけど。 「どっちから来ても、すぐは見えないよ」 「そういう話じゃな……っ」  すり、と頬から、耳の方に手を回すと、くすぐったかったのか、びく、と震えて、すぐにちょっと赤くなる奏斗に、抑えがきかなくなる。 「……ん」  唇を重ねて、少し退こうとしてる奏斗を自分に引き寄せて、深くキスする。 「……っ……ん、っ~……!」  ぷるぷる離れようとする奏斗の舌、絡めとって、深くキスすると。  んん、ともがいて、そのまま固まる。 「……っ……ン」  裸の肩に触れて、そのまま下に。  手が自然と奏斗の胸に触れた瞬間、ビクッ、と震えて、そのままオレの胸についた手に押されて、引き離された。……奏斗、顔、赤い。 「……っ馬鹿、もう! 何してンだよ……! 離れろよ!!」  ひそめた感じで怒鳴られるけど。  ……ほんと、可愛い。 「……ごめんね」  笑いながら謝ると、プンプンに怒ってる。 「やだ。許さない。もー。嫌い。お前」 「ドライヤーかけてあげようか?」  うんていう訳ないけど一応言うと、「ひとりでやれ」と一言。  プンプンしながら鏡の前からどいて、かごのところに戻ると、すっぽりTシャツを着てる。オレは、苦笑しながら、ドライヤーのスイッチを入れた。  その時、わいわい言いながら、三人が出てきた。 「やっぱ温泉ていいよなー」  相川先輩がとっても楽しそうに言いながら奏斗の近くに。 「あれ、ユキまだ顔赤いなーどんだけ?」  あはは、と笑われてる奏斗は、「ん」とだけ頷くと、ズカズカやってきて、扇風機の前の椅子に座った。  めちゃくちゃ至近距離で風を浴びながら、ドライヤーをかけつつ鏡越しに奏斗を見てるオレに気づくと、超怒った顔で、じっとり睨んでくる。    怒らせちゃったかな。……可愛いけど。  思わず苦笑い。

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