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第383話「隙だらけ」*大翔
「先輩」
隆先輩に、え? と見上げられる。ブチ切れたいところだけれど。オレは、めちゃくちゃにーっこりと笑った。少しも不機嫌を出さないように。なぜなら、これでオレが怒るっておかしいと思うから。
「酔いすぎですよ。そんなキスしたいなら、オレとします?」
「え。やだよ、なんでお前と……」
「……それ、多分、雪谷先輩のセリフだと思いますけど」
笑顔のままだけれど、思わず手首を掴んでる手に自然と力が入ってしまう。すると。
「わ、わかったって。謝るから」
相当酔っ払いながらも、オレの圧は辛うじて感じ取ったのか、先輩が奏斗に「ごめんな」と、謝った。
「いい、ですけど……」
奏斗が言いながらオレを見て、手、と言ってくる。
オレは仕方なく、忌々しいその手首を離した。どうこの場を引き払おうか一瞬迷った時。
「四年生は、隆くんを介抱してあげてくれるかな。寝かせた方がいいかもね。あと、四ノ宮くん、ごめんね、お酒決まったから、追加で頼んでくれる?」
先生の声。
「あ、はい」
ちょうどよかった。……というより、雰囲気察して、そう言ってくれたんだろうな。そんなことを思いながら、オレは先生の注文するドリンクを頼みに向かった。しばらくそのやりとりをして、それから部屋に戻ると、隆先輩はもう部屋に居なくて、たぶん連れて行った何人かも部屋から消えていた。
さっきのざわついた雰囲気は消えていて、もう普通。奏斗は、佐倉先輩達と居るからまあ大丈夫か、と、さっき話途中だった椿先生の居る席に戻った。すると、里穂がオレを振り返って少し近づいてきた。
「ユキ先輩、キスされちゃってたね」
里穂が、そんな風にこそこそと、耳打ちしてくる。
「悪酔いしすぎだよな……」
肩を竦めてそう答えると、里穂は苦笑い。
「先輩可愛いから、女の子と間違えちゃったのかなぁ……?」
そのセリフにはオレも、苦笑いで、曖昧に頷いた。
「他の先輩もされたって言ってたから……悪癖だよな」
大きな声では言えないので、里穂にだけ聞こえるようにそう言いながら。「男は、女が対象」だと、間違いなくそう思ってる子のセリフだなーと思った。
間違えるとかじゃなくて奏斗を好きでする男もいるんだよ、と言ったらどう言うんだろ。隆先輩がそうだって確証はないけど、前から奏斗に絡んでたしな。可愛いっつってたし。
あームカつく……。二度と奏斗に触んな。卒業まで、ガード確定。つかなんな訳、どんな意味にしろ、奏斗狙ってる奴多くねえ? ほんと、ムカつく。
――可愛いもんな。顔も。話してる感じも……。
ほんと、奏斗がその気になれば、恋人なんかいくらでもできるんだろうに。
つか、ほんとあの人、隙だらけじゃんか、キス位回避しろよ。そう思って、なんとなくちらっと奏斗を振り返った瞬間。ふっと奏斗が気づいた。ばっちり視線が合って、少しの間じっと見つめ合う。
ん? と首を傾げると、何だかむっとして、ふい、と顔を背けられた。
なんな訳。またなんか、怒ってんの? 何で? オレ今助ける時も、すげー頑張って笑顔でいったはずだけど? 誰にも悟られてはいないはず。……本人以外。
つか、むしろ怒ってるのは奏斗じゃなくて、オレの方だけど。触らせるなっつー話。
それからしばらくまた周りの人と話しながらも、心ン中はため息。
この飲み会いつまでやってんのかなぁ。そろそろお開きにしてもらって、できたら奏斗と話したい。そう思っていたら、奏斗が立って部屋を出て行った。
オレの前を通るけど、こっちは見ずに、完全に素通りで、振り向きもせずに。
「――――……」
……いいかな。今、皆、中に居るし。
たまたまトイレが一緒になる、て位、全然ありだよな。うん。
オレは静かに立ち上がると、奏斗を追って外に出た。
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