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第389話「違うはず」*奏斗

 部屋で皆と雑談したりテレビを見たりしながらしばらく過ごす。その内、もう寝てる人達も居るし、そろそろ寝ようって話になって電気を消した。  目を閉じて眠ろうとするのだけれど、色々頭によぎって眠れない。 「――――……」  四ノ宮の車で出発して、なんだか楽しいというか、すごく居心地が良かった。四ノ宮の運転はもう何回目かだけど、穏やかで安心して乗ってられる。途中寄ったパーキングで小太郎たちに会って、なんとなく一年と二年で別れて話しながら買い物を終えた。店の外に出た時、小太郎に、こっちに乗る? と言われたその瞬間、別にそれでもいいかなと思ったんだけど。  なんとなく、まだ四ノ宮の好きな音楽聞いてないし、とか思ったりして……。荷物移動もめんどくさいし、とか言って、気付いたら断っていた。  正直そんなの、全然苦じゃないのに。  どうしてオレ、断ったんだろうと思いながら、四ノ宮の車に乗り込んだら、そしたら、なんか急にキスされて。……オレが言った言葉は、見えたらどうすんのって。……怒るとこ、そこ? て、後になって自分で思った。  何で断ったんだろう。一年は一年で行った方が気を使わなくて楽しいかもなって、思ったのに。  ここについてから、四ノ宮は離れてくれてたと思う。少しは話したけど、なんか……助けに来ようとしてたみたいな時だけかな。お風呂とか、隆先輩にキスされた時とか。四ノ宮も、一年とか他の先輩達と楽しそうに話してたし。神社に行ったりしてたし。別に離れてても楽しそうだなーと思ってて……。  そう。楽しそう。……ただ、楽しそうだなと思っただけの筈。だよな?  意識なんてしてない。  ただ、四ノ宮が楽しそうに見えたから……そう言っただけ……?  ヤキモチ、とか。言われた。  違うよな。  ……違う。  だってヤキモチとかいったら。それって――――。  オレは、布団からゆっくりと体を起こした。  もうほとんどの人、寝てるみたい。四ノ宮も、動かない。  そっと立ち上がってふすまを開けても、誰も動かない。静かに部屋を出て、廊下を奥に進んだ。  自販機が何台か並んでいて、その前に、ソファが置いてある。  そこに座って、はー、と息をついた。  静かな廊下に、自分のため息だけが響く。  ……つか。ヤキモチ、じゃだめなんだよ。  四ノ宮がいつもいつも、奏斗と居るって、意味わかんないことばっかり言い続けるせいか、オレはあいつが側に居るのが当たり前みたいになってる気がする。  オレが自分で、ここでは離れてって言ったのに。それもちゃんと分かってるのに、側に居ないその間に、女の子と神社か、なんて思ってさ。別に良いけどって思ったけど、そもそもその、「別に良いけど」って言ってること自体がおかしい気がする。そんなの四ノ宮の好きで良いに決まってる。別に良いけどなんて言い方で、思っちゃダメなところなのに。  まして、四ノ宮に、楽しそうとか、仲いいとか言っちゃうなんて……。  仲良くない、ゼミ仲間だって、四ノ宮は即言った。……それが聞きたかったのか、オレ。とか。自分に対して、後から疑問ばかりが浮かんでくる。  キスされるのも触れられるのも、ほんとに嫌だったら、もっと振り払える。隆先輩にキスされた時は、思い切り離れたし。すごい、嫌だったし。  ――――四ノ宮が、キス、してきた時は……こんなとこじゃだめだ、て思った気がする。場所の問題じゃないのに。  意味が分かんないって四ノ宮に言ったけど。本当に意味が分からないのは、オレな気がする。  太ももに肘をついて、両手を重ねて額に当てた。  ……ダメだろ。絶対。ヤキモチとか。  四ノ宮とオレは、そういうんじゃない。大体、四ノ宮は、ゲイじゃない。今はオレに、構ってるけど……違う。絶対。    ……もうなんか……良く分かんない。自分の気持ちが。  もっと落ち着いて、ゆっくり、考えなきゃだめだ、オレ。  

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