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第391話「前に」*奏斗

 ……一人で生きるって。  和希と別れてからずっと思ってた。  あんなに好きで。和希も好きって言ってくれてたのに、ダメなら。もう誰と付き合ったって一緒だって。もう分かり切った未来で、傷つきたくないって、思った。  もう誰とも付き合わない。一人で生きていけるように、頑張るって決意して、生きてきた。  なのに。四ノ宮と、こんな風に絡んじゃって……。  四ノ宮は、オレとずっと居るとか言うけど……ずっとなんてある訳ない。  四ノ宮のお父さんはお見合いさせたがってたし。四ノ宮自身だって、跡取りってことも分かってるだろうし。  ずっと居るなんてのは、今言ってるだけって、オレはちゃんと分かってる。ずっとなんて言葉を、信じてはない。ちゃんと、分かってるのに。  最初あんなに胡散臭くて、怖かった四ノ宮がどんどん変わって……ずっと、一緒に居るようになって、四ノ宮の存在が、今、近くにありすぎる。  何でなのか、ものすごく、居心地がよすぎて。  ……なんかオレ。今、ほんとに、変なんだと思う。  執着されたくないから、一度きり。  オレの方だって、執着したくないから一度きり。  最初に四ノ宮に抱かれた時も、何度もして執着するようになったら嫌だからって。あの時、四ノ宮には言いはしなかったけど、最初からそう、思ってた。  和希に執着して依存してたのを、四ノ宮にうつすなんて、馬鹿げてる。  ペットボトルを開けて、水を流し込む。  先生は、スマホを見ながら、少し黙っていてくれている。スマホは、見る振りをしてくれているだけかも、とよぎるけど。  ああ、なんかオレ……やっぱり、終わらせないといけないのかも。    ――――……和希と、会えるかな。オレ。  和希に会っても大丈夫になって、昔の仲間とも会えるようになって。  そしたら、オレ、あそこで止めてしまってた自分の気持ち。前に、動かせる、かな。……ちゃんと、一人で、平気になれるかな。  四ノ宮には、へんなとこばっかり見せて、心配ばっかりかけて。  ……泣いてるとこ、どんだけ見せちゃったんだろう。  だからきっと、あんなに心配して、側に居るって言ってくれて。  ……情けないよな、オレ……。  なのに、一人で生きたい、とか。  オレが今日言ったの――――……嫌な思い。したかな……。  ああ、なんかオレ、今。  全部分かんないまま。全部、四ノ宮に押し切られてて。なんかこのままじゃダメな気がする。  ちゃんと、本当に、話さないと。  ……ていうか、話す前に、ちゃんと、考えないと。  そう思うと、明日の帰り道が、すごく憂鬱に思えてしまった。   「あの……先生?」 「ん?」 「……車で来たって言ってましたよね?」 「うん、そうだけど?」 「誰か乗って帰りますか……?」 「今のとこ、予定はないけど」 「――――……あの……」  図々しいかな、事情も言わないで。  ……四ノ宮の車に乗ってきたこと知ってるから、また、何でって思われるかもしれないし……。  ああ、どうしよう、やっぱりやめようかなと思って、言おうとした言葉を飲み込んだ時。 「僕の車に乗ってく?」 「――――……」  驚いて、え、と口を開けたら、先生は苦笑した。 「あ、違った? 乗りたいなら別に良いけど、と思ったんだけど」 「……あ、違わない、です。いい、ですか?」 「いいよ。……ただ、四ノ宮くんの車で来たんでしょ?」 「……はい」 「そっちが平気なら僕はいいけど」 「……聞いてみます」  なんとなく。  居心地のいい空間で、二人きりで、居たくなくて。  ……考える方が、先な気がして。  少し、四ノ宮と、離れたいけど……。  でもそれも、話してからじゃないとだめだよな……。 「ん、分かった。聞いてみて。明日帰りまでに分かればいいよ」 「はい」 「……じゃあ、戻ろうかな。ユキくんは?」 「もう少ししたら戻ります」 「ん。じゃあね。おやすみ」 「おやすみなさい。……ありがとうございました」  最後にそう言ったら、んー、と笑顔で、先生は部屋に戻っていった。  一人になって、ふ、と息をつく。  ……怒るかな。四ノ宮。  言いにくいな。  どこからかドアが開く音。スリッパの音が近づいてくる。  ……帰ろうかな、そろそろ。そう思ったら。 「奏斗」  ――――……もう声で分かってたけど。四ノ宮だった。

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