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第392話「どうして」*奏斗
「目が覚めたら奏斗、居なかったからさ。……大丈夫?」
「なんか眠れなくて」
そう言うと、四ノ宮は苦笑い。
「そうなの? 疲れてないの?」
言いながら、さっきまで椿先生が座っていたところに、四ノ宮が腰かける。
「疲れてるは疲れてるんだけど……」
すごく静かな空間で、ごく小さな声でも、聞こえる。
なんか……改めて、少し離れて、こうして見ると。
いつもおかしい位に近い四ノ宮とは、違って見える。
……そもそも何で四ノ宮って、オレのことばっか、構うんだろ。と思ってしまう。
ルックスもだし。……なんか、色々できるし。本人は裏表激しいとか言ってたり、おかしなことは言ってたりしたけど、外から見てれば、コミュ力高い、超人気ある奴だし。女の子にモテるのも分かるし。あと、なんか。
…………優しい? 多分。すごく。
オレの、自分でも面倒くさいとこに、面倒くさがらずにずっと付き合ってくれてる。無理矢理オレの中に入ってくることはなくて。相当面倒くさいだろうなって話をしても、なんか……黙って聞いてくれて。少し楽になることを、いつも言ってくれる、ような気がする……。
最初の頃、めちゃくちゃ胡散臭いって思っててあんまり好きじゃなくて。絡んでからも、なんかため息だったり、しかめ面みたいなの方が多かった気がして、何だろって思ってて……いつからだっけなあ。なんか変わってきたの。
ぼー、と考えてる間、四ノ宮はオレを見てる。
「……何で、黙ってんの?」
そう聞くと、四ノ宮は、んー、と苦笑い。
「絶交って言われてたけど普通に話してくれてるなーとか思ったんだけど」
「……ああ。言ったっけ」
「何。忘れてたの?」
「……ていうか、誰も見てないとこで絶交しても意味ないし……」
そう言うと、四ノ宮は、人の目なんて気にしなくていいのに、と笑う。
「オレが黙ってたのは、奏斗がすげー考えてるっぽい顔してるから」
そんな風に言われて、まじまじと、四ノ宮を見てしまう。
「何か言いたいことあんのかなーと」
もう敏いとか通り越して、ほんと、驚く。
「……あの、さ」
「ん」
「明日の帰り、なんだけどさ」
「うん」
「――――……椿先生の車に、乗って帰って、いい?」
そう言うと、四ノ宮は、少し眉を寄せて、む、としたけれど。
「……理由は?」
静かな声で、そう聞いてきた。
「さっきここで、少しだけ話してて」
「うん」
「……すごく考えたい、ことがあって」
「うん」
「先生と、話したいなって思った……から?」
「……ふーん……?」
四ノ宮は、あくまで静かに、聞いてくる。
「それって、オレに話すんじゃだめなの?」
じっと見つめられて、そう聞かれる。
四ノ宮とのことを考えたいから。
……四ノ宮とじゃダメだ。
「……うん」
頷くと。四ノ宮はしばらく黙っていたけれど、はー、と息をついた。
「奏斗がそうしたいのを、オレに止める権利はないけど」
「――――……」
「オレは奏斗と一緒に帰りたいし。何か考えてるならオレが聞きたい」
「……」
「奏斗が悩んでるなら、全部、知りたい」
まっすぐな視線が、なんか胸に痛い。
何だろう。
……最近たまに。胸が、痛い。
どうして。四ノ宮は、いつも、こんな感じなんだろう。
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