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第415話「前に」*奏斗

 大地と別れて昼食、そのまま三限に来た。  教授の話を聞きながら、ぼんやりと考える。  ……四ノ宮と大地って、なんだかんだ言いつつ仲良いんだろうな。気が合うのかなあ。  大地はああいう奴だから仲の良い奴は多いとは思うんだけど。四ノ宮の方も、王子の四ノ宮にはたくさん友達居ると思うけど。……でも、あの感じは、四ノ宮は素で話してる訳だから、それはもしかして、ほんとに仲が良いっていうことになるのでは。  そういえば、会ってすぐ、無理無理喫茶店ランチに持ち込んだって、四ノ宮は言ってたっけ。マジで何してんのって思ったけど。  まさかあそこが、仲良くなるとは思わなかったなあ。  何なの、同志って……。  でもそういえば、そっか、大地から連絡が来てから体育館を出ようとか、四ノ宮と大地は、そんなやり取りまでしちゃってるんだもんな。  ていうか。オレ。  ひとつ下の後輩二人に心配されて、色々動いてもらって、なんか、情けない気がする。それをちゃんと認識してしまうと、なんかちょっと落ち込むけれど。  ……一人で生きてくとか言って。  オレって、周りの人たちに、すごくたくさん助けられてしまっている気がする。真斗にだって、たくさん心配させてるし。  一人で自立して、ちゃんと生きるのと。  ……周りを拒絶して、一人でも平気って思うのとは、違うよな。  分かってたつもりだったけど。  ……なんか頑なに、一人で、って思おうとしてたこと。そのくせ、人に心配かけて、それもちゃんと気づいてなかったってことを、なんだか最近になって、思い知っているような気がする。  和希に会うのも、あり、か。  ……けじめって、大地は言ったけど、本当は「失恋」なんて、皆がけじめをつけられないことはたくさんあるんだと思う。突然の別れに、ふっきれてないままの想いだって、たくさんあるはず。男同士だからってことじゃなくて、男女だって、あるはず……。  オレはそれを、自分が男だからで、もう無理なんだって決めつけて。閉じこもって、体だけでいい、なんて言って、あんなこと、してて。別に、人と寝るのが悪いことだなんては思っていないけど。体だけでいいとかいって、相手のことなんか見もせず、自分の中に引きこもってたオレは、やっぱり良くなかった気がする。  失恋のけじめなんて、失恋相手に会うとかじゃなくて、本当は自分の中でつけなきゃいけないんだと思う。  でも。  ……和希がオレに会いたがってて。話したいって言ってて。  オレも。最後のあの時、何も言えなかった気持ち。ずっと持て余してて。  だったら。やっぱり、話した方がいいんだろうか。  小さく息をついて、オレは板書をノートに写していく。  少しだけ良くなってるとは言っても、長くトラウマだった別れ。思い出すだけで、心が冷えてどうしようもなくなってた。……会った時に、普通に話ができるんだろうか。震えたり泣いたりしないだろうか、オレ。  ほんとに情けなくて、どうしようもないと思うけど。  それをしないで居られるかが心配で、かなり、怖い。  そんなこと、和希の前で、したくない。  ……普通に話せたら、あの時のまんまで止まってた気持ちが、前に動かせるのかもと思うけど。普通に話せるのかと思うと、どうだろうと悩んでしまう。  実際に、踏み出すのは結構大変だなぁとは思うのだけれど。  ここまで、踏み出してみようかなと思えるようになったのが、結構な変化だって気はする。  ……なんか、そう思うと、四ノ宮の顔が、浮かぶ。 「――――……」  ……うん。  四ノ宮のおかげだってことは……もう、分かってる。  そういえば今日は、特に約束もしてないな。  学校についた時友達に会ったから、普通に、じゃーな、って別れたっけ。    四限が休講だから、今日は早く終わる。  真斗にお土産、渡しに行こうかな。おめでとうも言いたいし。  そんなことを考えながら、ちっとも頭に入ってこない先生の声に、意識を集中してみることにした。

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