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第420話「素って」*奏斗
鍋の中を見ると、とってもいい感じ。
火を止めて、カレー粉を中に入れる。溶けるのを何となく待ってから、いい匂いだなあ、と、ゆっくりと混ぜ始めた時。
インターホンが鳴った。下のエントランスじゃなくて、ドアのところなので、そのまま玄関に向かった。
鍵を開けると、案の定、四ノ宮で、中に入ってくる。
「今ちゃんと確かめてから開けた?」
「え。あ、四ノ宮だと思ったから」
「ダメだよ、変な奴かもしれないじゃん。気を付けて」
お母さんか。そう思いながら、まだカレーできてないよ? と言うと。
中に入ってきた四ノ宮に急に引っ張られて、ぎゅう、と抱き締められた。
「……っ」
「ごめんね。なんか嬉しくて。こっち来ちゃった」
「……カレー、好き?」
「カレーは好きだけど。……分かんないかなあ」
抱き締められてる四ノ宮が、なんか熱い。
「走んなくてイイって言ったじゃん」
「そんなに走ってはないよ。超早歩き?」
「なんだよそれ……」
少し離させて、顔を見つめて笑ってしまうと。
不意に四ノ宮の顔が近くなって、唇が重なってくる。
「……っ」
とっさに離れようとするけれど、離れられない。
少しの間、キスされて。ゆっくり離れる。
「――――奏斗、好き」
オレは玄関の一段高いところに居るので、下から見つめられる。途端に男っぽく変わった気がする。見つめられてそんな風に言われて――――ドキ、と胸が震える。
「つか……もう、なに、してンの」
内心焦って、四ノ宮を離すと。
「あ、そうだ。これ、しまっといて」
「……?」
「アイスいっぱい買ってきた。好きなのあとで食べよ」
手渡された袋を覗き込むと、なんかアイスがたくさんで、笑ってしまう。
「何でこんなに?」
「なんか嬉しくて、ぽいぽい買ってきちゃったんだよね。明日からも食べれるし。入れといて」
また嬉しそうに笑う。
嬉しくて、とかほんとに……。
苦笑してしまいながら、頷いた。
「……ありがと。オレもシャワー浴びるから、ごはん、十九時くらいでいい?」
「ん、分かった。じゃね」
言いながらドアのところで振り返る。
「すぐ鍵かけてね。あと、ちゃんと誰か確かめてから開けてよ」
「はいはい」
頷くと、じゃあね、と笑って、四ノ宮が出ていく。
ほんとにお母さんみたいだな、と思いながら、言われた通り鍵をかけると、隣に入ってく音が聞こえる。
「――――……」
アイスを冷凍庫にしまいながら、なんだかなぁ、と息をつく。
……好き、とか、嬉しい、とか。あの笑顔も。
何なのかなあ、ほんと。
弟みたいに可愛いなと思ってしまってたら。
……キスしてくるし。あんな風に見つめられるし。
もうなんか、ついていけない……。
四ノ宮って、なんか。
……最初の頃と、印象、全然違うなあ
もちろん、最初の王子スマイルの頃とは全然違うのは当たり前なんだけど、色々話して協定を結んだ後の四ノ宮とも。何か、今全然違う。
そういえば最初の頃。
良い人の期間が長くて自分でもどこまでが素か良く分かんないから、裏全開で行ったらどうするか、みたいなこと、聞かれたよな。オレは、イイよそれでも、て言った気がする。うさんくさいより全然いいと思ったから。
でも……今が、素なのかな。
なんか、思ってたのと、違う。
あいつもきっと自分で分かってないんだろうなぁ。
むしろ、素の方が、いい奴だったりするのでは。
笠井とかも、そんな感じで見てたような気がする……。
ていうか、オレに対しての四ノ宮は、ただのいい奴ってよりは、よく分かんなすぎるとこ、たくさんありすぎるけど。
さっきキスされたとこ。
……なんか。触れた感覚が、消えない。
思わず、ごし、と唇をぬぐう。
ほんと、もう。何なんだ。もう。
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