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第419話開中 「変?」*奏斗

 駅ビルのショッピングセンター。  ぶらぶらして、洋服を買った。綺麗な青のTシャツ。  買い物をしながら、夕飯どうしよ、なんて考える。  ……その、夕食を考えるのに、四ノ宮が入ってくる。  四ノ宮はどうするんだろうって。  別に今日は何も言われてない。  水曜日は、四ノ宮の家のパーティーに行くけど。今日も明日も特に約束はしていない。  今日休講で早く終わるとかも伝えてないし、ていうか、オレはそもそも自由に決めていいんだよなと、ふと思う。  たまに早い日くらい、ご飯を作ろうかな。そう思ったら、食べたいものがぱっとすぐ思い浮かんだ。カレーが食べたい気がする。そう思ったらもう、決定。  カレー作ろう。  ……まあ。……もし、四ノ宮がご飯食べないで帰ってくるなら。一緒に食べれなくはないし。別に四ノ宮が食べてきたとしても、余ったら明日も食べればいいし。それでいいや。  カツカレーにしようと思って、カレーの材料と、とんかつを買って、家に帰った。  キッチンに立つと、なんだか、本当に久しぶりな気がする。  コーヒーだけは淹れてたけど、包丁を持つのとか、いつ以来だろ。  野菜を切って炒めてると、何だか無心。  お肉を焼いてると、いい匂いがしてきて、美味しそうだし。  ……四ノ宮、食べるかなあ。  いつも食べさせてもらってるから、食べて帰ってこないと良いけど。 「――――……」  いつも色々してもらって、世話ばっかりかけて。  なのに、四ノ宮はどうしてオレのことが好きだなんて言うんだろ。  ほんと、謎……。  さっきの笠井の話。  そんな風に言ってもらえるような奴、かなあ。オレ。  は。もう分かってはいるけど、超ネガティブ。  ほんと、しょうがねーな、オレ。  さっき別れる前の笠井の笑顔を思い出すと、なんだかオレとずいぶん違うなと、ちょっと落ち込む。  オレも、振られても和希が好きだからって、言えてたら良かったのかな。  笠井みたいに、あんな風に好きだからって言えてたら、大分違う二年間を過ごしたかもな。  水を入れて煮込んで灰汁を取りながら、んー、としばらく考えていたけれど。ふと、深いため息が零れた。  少なくとも、高校二年のオレには、無理だったよな。  好きすぎて、のめり込みすぎてたし。ゲイってことに、悲観的過ぎた。  灰汁を取り終えて、蓋をして煮込み始めた時、テーブルの上のスマホが震えた。四ノ宮からの電話、だった。 「もしもし」 『奏斗。オレ今終わったんだけど……今どこ?』 「もう家」 「やっぱそっか』 「ん? なんで?」 『里穂と話してさ。奏斗が休講だからって帰ってたって』  あぁ、笠井と話したんだ。……笠井すごいな。 『オレ、今から帰るから。何か食べたいものある?』 「――――……」 『……奏斗? もしもし?』 「あ、聞こえてる」 『ん、何か食べたいものある?』 「無い……ていうか、四ノ宮は、ある?」    あるなら別に、良いんだけど……。と思いながら。 『オレはなんでもいいけど。どうして聞くの?』 「あー……ん、あの。カレー、作ってて」 『えっ?』 「……早く帰ったから、カレー、作ってるんだよね、今。あ、でもカレー嫌だったら、違うものたべ」 『カレーが食べたい。そう言えば今日ずっとカレーが食べたかった』 「……うそばっか」  言いながら、笑ってしまう。 「じゃあ食べないで待ってる」 『ん! すぐ帰る!』 「走んなくていいからね」 『何で走ろうとしてたの分かるの……って分かるか』  何だか電話の向こうで、めちゃくちゃ楽しそうに、笑ってる四ノ宮。 「まだ煮込んでるとこだから、帰って、シャワー浴びてきていいよ」 『ん、分かった。奏斗、ありがと、待ってて』  嬉しそうな声で言って、電話が切れた。  通話時間が表示された画面を見ながら、ふ、と微笑んでしまう。  ……あー。なんか……。  なんだろ、あいつ。  なんか。なんていうか。  ――――可愛い、とか。  思ったら変なのかなぁ……。  ……いやでも今の会話聞いたら、きっと誰でも、可愛いって思うんじゃないかな。いや、オレが変なのかな……。    ぽりぽり、と頭を掻きながら。  ふぅ、と息をついた。

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