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第418話「強さ」*奏斗

 笠井の言葉を待って黙っていたら、笠井は少しして、噛んでいた唇を解いて息をついた。 「それで……すごく好きすぎて……昨日帰りに、告白しちゃったんです」 「……そっか」  知ってるとは言えないので、それだけ言って、頷いた。 「夏休みとか、一緒に居られたらいいなとか……なんか考えちゃって」 「ん。そっか……」 「……断られちゃったんですけど」  苦笑しながらそう言って、ふ、とまた息をつく。 「……何でかって、大翔くんに色々聞いちゃったんです、私……」 「……ん」 「――――好きな人が、居るんですって。なんか、生まれて初めてこんなに好き、とか言ってました」  ふふ、と笠井が笑う。 「大翔君、可愛いなーって思って、ますます好きになっちゃいました」  クスクス笑いながら言って、でもすぐまた黙って、ため息。 「……付き合ってるとかじゃないし、全然まだ片思いらしいんですけど……馬鹿だなって思うとこいっぱいある人って言うんですよ。どんな人なんだって気、しません?」  笠井が、むー、と口を膨らませている。  ……それって、オレのこと???  馬鹿だなって、いっぱいって……まあ、オレか……。  なんか複雑な思いで聞いていると。 「でも放っておけないんですって。絶対ずっとそばにいたい、とか。あと、笑っててほしいから、とか……なんかそういうの言われちゃうと、もう諦めるしかないかなって思うんですけど……でも、そんな風に言う大翔くんのことが、もっと好きだなって思っちゃったりして。すごく、困っちゃって」 「――――……」  なんだか、ほんと。  ……聞かなきゃよかった。  ……それって、オレのこと…… だよな、きっと。  何でそんな風に、言うんだろ。  オレのことなんか、どうして、そんなに。 「あっ。ごめんなさい、わーって話しちゃって……。昨日の今日なのでまだ全然落ち着いてなくて……お昼も仲良い子だけじゃなくて皆いたので、誰にも話せなかったので……すみません、大翔くんには内緒でお願いします」 「あ、うん。分かってるよ」  頷くと、笠井は、苦笑い。 「今この時間、大翔くんの側に座って楽しく受けてた授業なんです。でも今日はさすがに、と思って、でも離れて座るのもなんか微妙だし、じゃあもうサボっちゃおうかなって……今日が終われば、来週からテストで夏休みなので時間は空くし」 「うん。……そうだね」  なんかうまく応えてあげられてないけど大丈夫かな。  なんかすごく答えにくくて。どうしよう、と思った時。 「……先輩、きいてくれてありがとうございます。すみません、わーって話しちゃって……でも聞いてくれるだけで、ちょっと楽になります……」 「……うん」  そっか。なら良かった。 「……失恋って辛いよね」 「――――……」  オレが言ったら、笠井が、ぱっと顔を上げて、オレを見つめてくる。 「ん?」 「先輩、失恋したことあるんですか?」 「何その質問……あるよ?」 「先輩を振る人なんています??」 「――――居るよ。結構ひどく振られた感じ」 「ええっ信じられない……それこそどんな人って思っちゃいますね」  はは、と笑ってしまう。 「そっかー……先輩でも失恋なんてあるんですね……」 「あるよ。そんなうまくいかないよね……」 「……そうですよね……」  笠井は、またため息。 「何か飲む? 甘いものでも買ってきてあげるよ」 「いいんですか?」 「ん」 「……じゃあめちゃくちゃ甘そうなカフェオレ、がいいです」 「了解」  オレはベンチから立ち上がって、近くの門から出た所にあるコンビニで、カフェオレとチョコレートを購入して笠井のところに戻った。 「はい。……元気出して」 「ありがとうございます。あっチョコまで」  嬉しそうににっこり笑った笠井に、食べてね、と伝える。 「――――……あー、私」 「ん?」 「……授業。出てきます」 「え?」 「……居ないともしかしたら大翔くん、気にしちゃうかもだし。となりは空いてないだろうから、近く、座ってきます。……あと。振られても、私が大翔くん、好きなのは変わらないので。頑張ります!」 「……うん。頑張れ」  それしか言う言葉が出て来なくて、そう言った。 「はい! ありがとうございました!」  笑顔で頷いて、走り去っていく笠井の後ろ姿を見ながら。  えーと……ちょっと無理、してるとしても。話したら、結局四ノ宮のことが好きだってことが分かって、元気になったのかな……?  オレもあんな風だったら、よかったのかなぁ……なんて、無理なことも考えつつ。  強いなぁ。と、感心してしまった。

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