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第427話「深呼吸」*奏斗
四ノ宮はオーブンを覗き込んでから。
「すげー熱そうだから、オレがやるね」
「つかオレ、できるよ」
「でもオレがやる」
クスクス笑いながら、四ノ宮は言って、「奏斗はサラダとかお茶出して」と言ってくる。
「引き受けて、やけどしないでね?」
「心配?」
「……別に」
からかうような口調にむ、としつつ、お茶を淹れてると。
「あっつ……」
「えっ」
四ノ宮の声に、びっくりして振り返る。
「やけどした? 早く水で冷やして、オレ、氷出してくるか……」
腕を掴んで水道のところに四ノ宮を引きながら焦って言うと、四ノ宮はクスクス笑って「ごめん、嘘。やけどしてない」なんて言う。
「……つか、お前そういうの、ほんとやめろよ」
怒って、掴んでた手をぽいっと投げるみたいに離すと、ごめん、と見つめてくる。
「別に、とか言うからさ。ちょっとふざけたら。すごい焦ってくれるから」
「タチ悪い。もう」
オレは結構本気でムッとしてるのに、そのまま、ぎゅ、と抱き締められてしまった。
「……つか、オレ、結構、嫌な気分なんですけど」
「うん。 ごめんね。そんな心配すると思わなくて」
「するっての、心配。……ていうか、お前じゃなくても心配するからな」
ほんとにもう、離せよ、と、もがいていると。
ぎゅ、と包まれる。
「……うん。そんな風に、心配、皆にするんだろうけど。……可愛いなぁ、奏斗」
クスクス笑ってる四ノ宮に、はーとため息。
「オレ、怒ってるのに、可愛いって何だよ。もう……」
「――――ほんと、優しくてさ。反応、すげー可愛くて……大好き」
ぎゅううと抱き締められて、動けない。
「……あの」
「ん?」
「――――……ちょっと……加減、してよ」
「ん?」
「ついてけない……」
それしか言えなくて、言ったら、四ノ宮は不思議そうにオレを覗き込んできて。
「……真っ赤、奏斗。何で?」
「うるさい、もう、恥ずかしいんだよ、全部!」
「はは。可愛い」
「その可愛いっての、マジでやめて」
「だって可愛いし」
「もういいから食べようよ。お腹空いたし」
「ん」
クスクス笑いながら、やっとのことでオレを離す。
ふ、と息をつきながら、お茶やサラダをテーブルに運ぶ。
もう。なんか、疲れた。
ため息をつくと、四ノ宮が笑う。
「ため息ついてると、葛城に注意されるよ」
「葛城さん? 何で?」
「幸せが逃げるってさ」
「そうなの?」
「だから、ため息じゃなくて、吸って、吐いたら、もう一回深く吸えって」
言われるまま、すーはー、のあと、もう一回吸う。
「そうすると、深呼吸になるから、体にもいいって。あ、吸うのは、鼻からの方がいいってさ」
「――――……」
言われるまま、すーはーすーはーしていると。
ぷ、と四ノ宮に笑われた。
「……なんだよ?」
「いや……怒ってため息ついてたのに、まじめに聞いてくれて、すーはーしてんの、すっげー可愛いなと思ったらつい」
口元を抑えながら、クスクス笑ってる四ノ宮に、もうお前、ほんと嫌、と呟いてるのに。四ノ宮は変わらず、楽しそうに笑ってる。
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