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第426話「風呂上り」*奏斗

 人と話したり考えたりしてる内に、頭では少し分かってきた気がする。  あれはただの、失恋のひとつで、もう恋をしないなんて、決めるほどのことじゃなかったかもって。  ……でも、なんか、気持ちがついていかない。    和希を初めて好きになってから、男同士なのにってずっと迷いながら、でもすごく大好きで。  耐えられなくて、もう玉砕する覚悟、諦めたくて告白したら受け入れてくれた。  付き合ってる間は、めちゃくちゃ大事にしてくれたし、本当に仲良かったと思う。大大好きで、和希もオレを好きだって言ってくれてた。  初めて好きになった人と、あんな風に付き合えて、本当に好きすぎたから、別れを告げられたあの後、オレは、もう全部要らないって思った。あれ以上、好きになれることなんて無いだろうから、ならもう、何もいらないって。  あれ以上好きになれることなんてある訳ないって。今も、まだ思ってる。  ……それ位、すごく好きだった。  最近の四ノ宮がなんだか、可愛く見えて困るけど、その感情がそういう好きなのか分からない。  和希を好きだった気持ちとは、なんか違うし。  オレの四ノ宮への気持ちって。  ……何なんだろう。  最近いつも一緒に居て、なんとなく、今のオレにとって、大事な存在、なのは自覚してる。  だって、いつも、頭にあるし。  これ、はっきりする日、来るのかな? なんて思ってしまう。  先生が言ってた、昨日まで何とも思ってなくて、気付いたら、とか。  ……そんなことって、あるかな。  四ノ宮が十五分で来るなんて言うから、そんなことをモヤモヤ考えながらも、急いでシャワーを浴びて、バスルームを出た。ドライヤーをかけて大体乾いた頃、ちょうどチャイムが鳴った。 「四ノ宮?」 「……そう」  別にのぞき穴から見なくても、声かければいいんじゃん、と思いながら声をかけると、ちょっと間が開いて、返事が来た。  ドアを開けると、風呂上りの、少し幼く見える四ノ宮が入ってきた。 「声かけて変な人だと会話になっちゃうから、見た方がいいよ?」 「あのさ、オレ、男だからね一応。そこまで気に」 「気にしてよ。心配だから」 「……過保護なお母さんかよ……」  苦笑いで言うと、腕を取られて、後ろに引き寄せられた。 「なに――――ん、ぅ……」  その腕の中に抱き込まれて、キスされる。  短いキスをして離れて、頬に触れる四ノ宮と見つめ合うと、目の前でその瞳が、ふわ、と緩む。 「風呂上り、可愛い」 「……っ」  ……それ、お前もだからな。  風呂あがりって皆可愛くなると思うからな!  と言いたいけど、それを言うと、四ノ宮が可愛いってオレが思ってるみたいだと気づいて、ぐっと言葉を飲み込む。 「ぁ、いい匂いしてるね。そろそろかな」  四ノ宮が言った瞬間、オーブンの終了を告げる音が鳴った。 「すごいぴったり。食べよ、奏斗」  背中にぽん、と手を置かれて、進まされる。  四ノ宮のなすがままな感じ、もう結構ずっとそんな気がするけど、余計そうなってきたような。  そう思うと、なんだかとっても微妙なのだけれど。  先にキッチンに進んでいった四ノ宮がオーブンを開くと、余計にイイ匂い。  ……もういいや。食べる準備しよ。

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