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第425話「意識」*奏斗

 家に入ってからは、四ノ宮に言われるまま分業。  オレはまずカレーを火にかけて温めて、その横で四ノ宮が玉ねぎを炒めてバターライスを作ってた。そのまま耐熱皿に入れてカレーをかける。真ん中に穴を開けて生卵を落として周りにチーズで、準備オッケイ。 「オーブンで焼いてる間にシャワー浴びちゃお」 「あ、うん。そだね」  四ノ宮の言葉に頷くと、四ノ宮がオレをじっと見てることに気づく。 「何?」 「一緒に浴びる?」 「……浴びない」  何言ってんだもう。  ……確かに、何回かは浴びてるから、何ともいえない気分にはなるけど。 「いいじゃん、その方が早い? じゃん」  笑いながらそんな風に言う四ノ宮に、苦笑い。 「自分で言ってても疑問形じゃんか。一人で入った方が断然早い。自分ちで入ってきて」  その背を押しながら、リビングから廊下へ。 「んー、分かったよ。浴びてくるから」 「から?」  振り返ってくる四ノ宮を「何?」と見上げた瞬間。  唇が触れてきた。咄嗟に引いた後頭部に触れた手に、ぐい、と引き寄せられて、いきなり深く重なる。 「ん……っ」  舌が絡む。  逃げられないようにしてる手は強いけど。キスの仕方は、優しくて。なんか、そのまま、受けてしまう。 「……ふ……っ」  ぎゅ、と目を閉じる。……突き飛ばすとか。しようと思えば出来る筈なのに。四ノ宮にそうできたこと、無い気がする。なんでなんだろう、これ。合宿で先輩にキスされた時はすぐ、離れたのにな……。 「……奏斗?」  四ノ宮はゆっくりとキスを離してオレを呼ぶ。閉じていた目をオレが開けて、視線が絡むと、ふと優しく笑って、それからまた、ちゅ、と唇に触れた。 「……これで我慢する」  にっと楽しそうに笑って、オレの頬をすり、と撫でながら言った。 「……っ」  何か言ってやりたいけど、何だか何も出てこない。  困る位、自然にキスする四ノ宮をどうしたらいいのか分からなくて。  それを普通に、受けてる自分も、よく分からない。 「じゃあまた。十五分位で来るから」 「うん……」  頷いて見送り、鍵をかけた。  は、と息をつきながら中に戻って、シャワーを浴びる。  キス。  四ノ宮が、オレにするのは、「好き」だから?  ……普通は、好きでも、そう簡単にキスなんかしないけど。  なんかオレ達のここまでの関係がおかしすぎて、普通が当てはまらない。  オレも今更拒むのかと。……なんかそれって、言われたばかりの「好き」をものすごく意識してるみたいで。  なんか、それもどうなの、と自分で思ってしまう。  ……意識。  …………しまくってるの、自分でも分かってるけど。  恋なんかもうしないって決めて、一人で生きるために色んなことしてきたつもりだった。  でも、椿先生やリクさんに言われたことで思うところ、たくさんあった。  オレは、男同士だからって、そこに重点をおきすぎちゃってたけど……和希とのことも、結局はオレを好きな気持ちが、そこまでじゃなかったってことな気がしてきた。  オレと居たい気持ちが、ゲイは嫌だって思う気持ちに負けただけで。理由はなんにしろ、そんなのただ、そこまで好きだと思わせられなかったオレの、ただの失恋だったのかも。  気づいたら恋してる。  ……というには、なんか、四ノ宮との始まりから今までが、ほんと特殊すぎて。  うーん……。    そういう色々もあるから、四ノ宮も、答えはすぐはいらないとか言ってるんだと思うけど。  きづいたら、か……。 

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