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第424話「だだっこ」*奏斗

◇ ◇ ◇ ◇ 「奏斗!」  駅から少し離れて、マンションに向かう通りで待ってると、四ノ宮が駆け寄ってきた。 「走んなくっていいのに」 「授業終わるの遅かったし。待たせてごめんね」 「連絡くれたからもうそれ分かってるしさ。それ位待ってるってば」 「そうなんだけど」 「あと、奏斗って遠くから」 「分かった、呼ばないから」  ごめん、と、苦笑いの四ノ宮。  来た早々なんか文句みたいになっちゃったけど。  ……なんだかさ。  尻尾振ってくるみたいな。やめてほしいんだよね。なんか。……可愛く見えるから。  はー、とため息をついてしまうと。 「そんな怒んないでよ。行こ?」  笑顔の四ノ宮がオレを見ながらそう言うので、別に怒ってないけど、と言いながら隣で歩き始める。 「あ、そーだ。一応、四ノ宮に言っとくね。あのさ」 「ん?」 「オレ、今週末位から、あんまり家にいないから」 「え?」 「家に居ても、友達が来てると思う」 「は? 何で?」  なんだか明らかに、面白く無さそうな感じが、寄った眉に現れている……。   「去年からやってたんだけど、テストとかレポートとか。一人でやってもつまんないし皆でやろうよって言ってて。あとノートとかたりないやつとかも協力しながら」 「そうなんだ……」  多分何かしら文句を言おうと思っていたらしい四ノ宮は、その話の内容を聞いたら、あんまり言えなくなったらしく、んー、と唸りながら頷いている。 「夜は?」 「泊りっこしてた」 「はー? いいじゃん日帰りで」 「遅くまでやってるから面倒じゃんてことで……別に帰る理由ないじゃん」  四ノ宮も、それはそうかと思うのか、それ以上は言ってこない。 「――――……んー……」 「……何考えてんの?」  しばらく黙ってる四ノ宮を見上げて聞くと、んー、と唸った後で、オレを見つめてくる。 「それ、一日おきとか、出来ないの」 「……」 「だってテスト週間みたいなの、土日挟んだら十日位あるしさぁ。長すぎ」 「……わかんない。皆で決めるし」  こんな顔してそんな事言うとは思わなかった。だだっこみたい。いつもはなんかむしろ大人っぽい顔、してんのに。 「毎日ずっと一緒な方がおかしいじゃん……」  困って、一応正論かなと思うことを言ってみると。 「別におかしくないじゃん。オレが、奏斗と居たいから居てもらってるんだし。理由はあるでしょ」 「――――……」  なんだそれもう。  ……好きとか、言ってからは、なんかもう、本当に思うこと全部そのまま伝えてきてるような気がする。  答えるのに困ること、しばしば。 「とりあえず、まだ詳しいこと、決まってないから。また決めようっていってるとこ」  マンションについて、エントランスを通りながら、四ノ宮を見上げて、首を傾げてしまう。 「ていうか、四ノ宮は、そういうことしないの?」 「……そんなのするつもりなかったけど」 「まあ。皆がしてる訳じゃないけどさ。なんか楽しかったから、ってのもある。テスト勉強とか一人でしててもつまんないし」 「奏斗が楽しいのはいいけどさ」 「――――……」 「オレがすげーつまんない」  ……だだっこか……。  多分おそらく、多くの人が、大人っぽいイケメンだと評する顔なのに、と思いながら。  エレベーターのボタンを押してから、振り返ってくる、だだっこの視線がなんか痛い。 「まーいいや。その話はあとで」  ……後で何の話を四ノ宮とするんだろうと、謎に思いながら。 「先食べよ。お腹すいたし。もうこのまま奏斗んち行って良い?」 「あ、うん。ごはん、昨日の残りご飯で良い?」 「あっためて焼くし、いいよ」 「うん」  四ノ宮の部屋の前を素通りして、オレの家の鍵を開けた。 (2023/9/29)

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