417 / 542

第423話「好きとか」*奏斗

 翌日の学校。お昼が終わって三限に向かう途中、一緒に居た友達たちが話し始めた。 「来週途中からテスト始まるじゃん」 「うん」 「また泊りっこする? ユキんちとか、オレんちとかさ」 「ん、いいよ。しよしよ」  言いながら、ふと四ノ宮の顔が浮かぶけど、まあ、こういうのはしょうがないだろうと思い直す。  レポートを作ったり、ノートまとめて提出したり、本も持ち寄ったりして、テストと色んな提出物の期間、皆で協力して乗り切ってるオレ達。  年二回、同じように過ごして、二年の夏季で三回目。 「金曜位からにする?」 「うん、だね。いいよ」 「じゃあ、いつ誰んちでとか、皆であとで決めよ」 「うん」  四ノ宮は一年だから、初テストか。  ……なんかあいつは、普通にできてしまいそうだな。  むしろ協力なんか、めんどくさい、って言いそうな気がする。  あ。入学式で挨拶したんだった。……すごいよなー、ほんとになんでもできんのかな。  作るごはんがあんなに美味しいって知ったら、もっとモテるだろうなぁ。  そんなことを考えていたら、椿先生とすれ違った。 「あ、ユキくん」 「あ、椿先生。こんにちは」 「ユキくん、あの……」  言いかけた先生。  オレは「ごめん、すぐ行くから」と、皆と別れて、先生と向き合った。 「一昨日、ありがとうございました」 「いえいえ。アップルパイ、食べたよ。おいしかった、ごちそうさま。ってそれだけ言おうと思ったんだけど。ごめんね」 「いえいえ。良かった、美味しかったんですね」  よかったー、と話していると。不意に聞こえてきた声。  「あ。お疲れ様です」  この声は。と思うと……案の定、四ノ宮で。  何で椿先生と居るとよく会うんだろうか。どんなめぐりあわせ?  わざわざ一緒にいた友達と別れてこっちに近づいてくる。 「合宿お疲れさま、四ノ宮くん」 「お疲れさまでした」  にっこり綺麗な、外向きの笑顔だな。  ぼんやりと思いつつ四ノ宮を見ていると「二人ともどうだった? 初のゼミ合宿。一言でいうなら」と椿先生。 「やっぱり実際起業してる先輩達に色々聞けて良かったです」 「最後のシミュレーションが面白かったです。実際役立ちそうで」  オレと四ノ宮が簡単に言うと、「そっか」と微笑んだ。 「とりあえずレポートよろしくね」 「はい」  二人で頷いて、先生を見送った。 「……なー、椿先生と話してるとよく会うのって、何?」 「さあ? なんか二人が立ってると、目立つのかも?」  クスクス笑いながら、四ノ宮がオレを見下ろす。 「四ノ宮と立ってる方が目立つと思うんだけど。背ぇでっかいし」  苦笑いでそう言って見上げたところで、チャイムが鳴った。 「あ、やば」 「奏斗、一緒に帰れる? 五限だよね?」 「いつも五限の皆と帰るから」  いつもそうだし。と思ってそう言うと。  そっかー、となんか残念そう。 「……駅前で皆と別れるから、そこで待ち合わせでいい?」  言ったら、ぱっと笑顔になる四ノ宮。 「……だってカレーのドリア作ってもらうし」  言い訳みたいに言ったオレに、ふ、と嬉しそうに笑うと、「じゃあ駅ついたら連絡するね」と言って、離れていった。オレも歩き出しながら。  だから……。  捨てられた犬みたいな感じになったり、めちゃくちゃ嬉しそうになったり。しないでほしいんだけど。ほんと、四ノ宮って……。  はー、とため息。  ……オレ、ずっと、もう二度と、恋なんてしないって思ってた。  だからクラブなんて行って。ぬくもりだけでもいいって思ってたし。  好きとか。  ……考えること自体、久しぶりすぎて。  いくら答えは今でなくていいって言われたって。  難しいなぁ……。    少しため息をついて、オレは少し急いで、歩きだした。

ともだちにシェアしよう!