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第423話「好きとか」*奏斗
翌日の学校。お昼が終わって三限に向かう途中、一緒に居た友達たちが話し始めた。
「来週途中からテスト始まるじゃん」
「うん」
「また泊りっこする? ユキんちとか、オレんちとかさ」
「ん、いいよ。しよしよ」
言いながら、ふと四ノ宮の顔が浮かぶけど、まあ、こういうのはしょうがないだろうと思い直す。
レポートを作ったり、ノートまとめて提出したり、本も持ち寄ったりして、テストと色んな提出物の期間、皆で協力して乗り切ってるオレ達。
年二回、同じように過ごして、二年の夏季で三回目。
「金曜位からにする?」
「うん、だね。いいよ」
「じゃあ、いつ誰んちでとか、皆であとで決めよ」
「うん」
四ノ宮は一年だから、初テストか。
……なんかあいつは、普通にできてしまいそうだな。
むしろ協力なんか、めんどくさい、って言いそうな気がする。
あ。入学式で挨拶したんだった。……すごいよなー、ほんとになんでもできんのかな。
作るごはんがあんなに美味しいって知ったら、もっとモテるだろうなぁ。
そんなことを考えていたら、椿先生とすれ違った。
「あ、ユキくん」
「あ、椿先生。こんにちは」
「ユキくん、あの……」
言いかけた先生。
オレは「ごめん、すぐ行くから」と、皆と別れて、先生と向き合った。
「一昨日、ありがとうございました」
「いえいえ。アップルパイ、食べたよ。おいしかった、ごちそうさま。ってそれだけ言おうと思ったんだけど。ごめんね」
「いえいえ。良かった、美味しかったんですね」
よかったー、と話していると。不意に聞こえてきた声。
「あ。お疲れ様です」
この声は。と思うと……案の定、四ノ宮で。
何で椿先生と居るとよく会うんだろうか。どんなめぐりあわせ?
わざわざ一緒にいた友達と別れてこっちに近づいてくる。
「合宿お疲れさま、四ノ宮くん」
「お疲れさまでした」
にっこり綺麗な、外向きの笑顔だな。
ぼんやりと思いつつ四ノ宮を見ていると「二人ともどうだった? 初のゼミ合宿。一言でいうなら」と椿先生。
「やっぱり実際起業してる先輩達に色々聞けて良かったです」
「最後のシミュレーションが面白かったです。実際役立ちそうで」
オレと四ノ宮が簡単に言うと、「そっか」と微笑んだ。
「とりあえずレポートよろしくね」
「はい」
二人で頷いて、先生を見送った。
「……なー、椿先生と話してるとよく会うのって、何?」
「さあ? なんか二人が立ってると、目立つのかも?」
クスクス笑いながら、四ノ宮がオレを見下ろす。
「四ノ宮と立ってる方が目立つと思うんだけど。背ぇでっかいし」
苦笑いでそう言って見上げたところで、チャイムが鳴った。
「あ、やば」
「奏斗、一緒に帰れる? 五限だよね?」
「いつも五限の皆と帰るから」
いつもそうだし。と思ってそう言うと。
そっかー、となんか残念そう。
「……駅前で皆と別れるから、そこで待ち合わせでいい?」
言ったら、ぱっと笑顔になる四ノ宮。
「……だってカレーのドリア作ってもらうし」
言い訳みたいに言ったオレに、ふ、と嬉しそうに笑うと、「じゃあ駅ついたら連絡するね」と言って、離れていった。オレも歩き出しながら。
だから……。
捨てられた犬みたいな感じになったり、めちゃくちゃ嬉しそうになったり。しないでほしいんだけど。ほんと、四ノ宮って……。
はー、とため息。
……オレ、ずっと、もう二度と、恋なんてしないって思ってた。
だからクラブなんて行って。ぬくもりだけでもいいって思ってたし。
好きとか。
……考えること自体、久しぶりすぎて。
いくら答えは今でなくていいって言われたって。
難しいなぁ……。
少しため息をついて、オレは少し急いで、歩きだした。
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