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第443話「スーツって」*奏斗 ※

 なんとなくそこで会話が切れると、四ノ宮のお父さんに言われたことも浮かぶ。なんだか疲れた気がして、窓の外を見たまま、少し黙っていると。 「疲れた?」  四ノ宮が聞いてくる。 「ん。慣れないから。……でも楽しかったよ。色々美味しかったし」 「ああ。葛城が選んでるしね」 「お口にあってよかったです」  葛城さんの言葉に、はい、と笑って、また少し黙ると、四ノ宮は「着くまで休んでていいよ」と言って、オレの肩をぽんぽんと叩く。その言葉に甘えることにして背もたれに寄りかかったまま、流れていく外の景色を見つめる。  マンションの駐車場で降ろしてもらって、葛城さんにお礼を言って別れた。車が見えなくなるのを見送って、二人きりになると、なんとなく、四ノ宮を見上げた。 「スーツって、違う人みたいに見えるね」 「奏斗もだよ」 「四ノ宮は堂々としてるから……社会人って言われても、ああそう、て思うかも」 「老けて見える? オレまだ十八だけど?」 「んー、大人っぽい、かな?」  エントランスに向かって歩き出しながら、笑いながら話す。 「親父も母さんも、奏斗のこと褒めてたよ。本当に似合うって。また別のも着てみてほしいって」 「似合うっていうのは、嬉しいけど」 「色んな人に話しかけられて褒められてたでしょ、奏斗」 「うーん……なんとなくオレを通して、お前と仲良くしたかったんじゃないのかなって思ったけど」 「それだけじゃないと思う」 「そうかなぁ……」  エレベーターを降りて、荷物の中から鍵を探しながら部屋に向かう。 「家でこれ脱ぐけど……ほんとにもらっちゃっていいのかな?」 「だって奏斗に合わせて作ったんだし」 「そっか。ん。ありがと――――じゃ、ね?」  四ノ宮の部屋を通りすぎて、自分の部屋に戻ろうとしたのだけれど、待って、と腕を掴まれた。  そのまま、鍵を開けた四ノ宮の家に連れこまれる。 「えと……何?」 「オレ、親父に会わされた子、断ったからね。急に会わされて驚いたけど」 「――――あぁ。うん。聞いた」  そう言うと、四ノ宮は、ん? と不思議そう。 「四ノ宮のお父さんに、聞いた。好きな人が居るって、言われたって言ってた」 「あ、そうなの? 他何か言ってた?」 「んー……あの子には、諦めてもらおうって話してたって」 「そんなの話してたんだ。……うん。そうなったから」 「ん。分かった」  本当は、オレにそれを言わなきゃいけないってこともないんだけど。  ……でも、二人になったらすぐ言ってくれるんだな、とも思っていると。  腕を軽く掴まれて引き寄せられて、四ノ宮を下から見上げた。 「何……?」 「オレ、スーツ着てる奏斗に、触りたくて」 「――――っ何言ってンの?」 「ずっと、キスしたくてさ」 「……だから着替えないで帰るって言ったの?」 「つか、スーツ姿、すげーそそるんだもん」  腰に腕を回されて、きゅ、と抱き寄せられる。  そんな言い方が恥ずかしくて、顔が熱くなるけれど。 「……あの、さ、四ノ宮」 「ん?」 「……オレ達、さ」 「うん」  さっき車の中からずっと、考えていたことを言葉にしてみた。 「――――友達、じゃダメ?」 「……ん?」  四ノ宮は、首を傾げて、オレを見下ろす。 「だから、こういうこと無し、で友達――――」  まだ話し途中の唇に、四ノ宮の唇が重なってきた。 「……っ……」  舌がすぐに入ってきて、中で動く。「ん」と声が漏れると、四ノ宮の舌が上顎の裏を、なぞる。 「んンっ……ぅ……ふ……」  体がかぁっと熱くなって、頭に血が上って、すぐに息があがる。  四ノ宮の本気のキスは、いつも、こんなで、こうなると、もう無理。 「……ふ、ぁ……っ」  顎を押さえていた手が外れて、する、とシャツの上から胸を撫でる。先端を掠めるたびに、ぞく、として、涙が滲む。 「友達は無理……オレ、奏斗が好きだから」  耳元で囁かれると、びく、と体が震える。ぎゅ、と目を閉じるけれど、耳の中に舌が入ってきて、あ、と体に力が入る。  体の熱が、どんどんあがっていく。

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