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第445話「いっそ」*奏斗

 その後気付いたら、浴槽の中で後ろから抱き締められていた。  目は覚めたけれど、なんだかものすごくぼーっとしたまま色々洗われて、バスタオルで拭かれて、髪を乾かされてる間に歯磨きをくわえさせられた。  なんだかその間、四ノ宮はずっと優しくて、オレが全部やるから半分寝たままでいいよ、なんて言って。クスクス笑ってた。  付き合った女の子に、四ノ宮がこういうことをやってあげるなら、なんかほんとにめちゃくちゃ好かれそう。なんて思うくらい。なんか本当に優しくて。オレはなんか抵抗する気も無くて、なすがままになってて。  ベッドで抱き締められて眠って、朝、四ノ宮が先に起きて作ってくれた朝ごはんを食べて、学校にきたところ。  落ち着いて考えるとますます、昨日のパーティーは、別世界みたいだった。  もともと色んな話を聞いてた時からすごいなとは思っていたけど、住む世界が違うなんて、初めて実感した。  本気なら認めるとか、四ノ宮のお父さんは言ってくれてたけど。  やっぱり四ノ宮は、もともとノンケなんだし、跡取りなんだし。  オレに、あの家族のなかに飛び込む覚悟なんてあるわけがないし。そんなことしていいわけないとも思うし。   オレなんかと、こんな関係、続けてちゃだめだよなって、思って。だから、友達じゃダメとかとっさに聞いちゃったんだけど。  そう思ったのに、昨日、あんな風に抱かれるとか……。昨日帰ってから、朝までも。なんだかなって感じのオレ……。  結局昨日は、あれ以上は何も言えなかった。  なんでちゃんと、言えないんだろ。  居心地が良すぎて、離れたくないとか……そんなのは、四ノ宮の「好き」に対する返事としては違うよな。なにしてんだろ、オレ。  四ノ宮のことは、可愛いなとか思っちゃうくらい、好き、なんだと思う。……あんな風に接してくれて、好きじゃない訳ないよね。と思うくらい。  でも、「本気なら認める」なんて言われるほどの気持ちじゃない。それに、四ノ宮を、こっちの世界に連れてくる覚悟なんて、オレにはやっぱりできない。  四ノ宮と離れるのは寂しいと思ってしまうオレが居て、だから、友達っていう選択肢が出てきたのだろうけど……。  だったら、抱かれちゃダメだよね。  ほんと、意味が分かんないよな。オレ。  いっそ、離れるべきなのかな。  好き、には、答えられないって言うべきな気がする。  思えば、最初からとんでもないとこで出会って、あれから、色々知られちゃって、四ノ宮にみっともないとこ散々見せてしまった。  四ノ宮は、ほっとけなかったんじゃないかな、もともと優しいから。  それで、抱き合っちゃってたりしたから、余計に情が沸いちゃって、今ああなってる気がするから……。  こんなのほんとは、なかったはずの事態だと思うし。  ある日、突然恋だと思う、なんて、オレと四ノ宮の中には無い気がするし。  なんかもう。  オレ。やっぱり、ほんとは、断らないといけないと思うのに。    ……そんなことを、延々考える。

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