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第448話「今、好きな人」*奏斗

 少し黙ってから、真斗がオレを見てクスッと笑った。 「ね、カナさ。好きな人、出来た?」 「……何で??」 「だって、少し前まで、ヤバかったじゃん。カズくんのこと話すだけでも、さ」 「何でそれで好きな人?」 「好きな人できると、前の失恋とか、和らぐでしょ」 「――――」  ……好きな人。  ――――好きな人? 「今、誰か、浮かんだ?」  真斗は、何だかすごく嬉しそうな顔でオレを見つめるけれど。  オレの方は、呆然。  浮かんでるのは、さっきからずっと、一人だけ。  オレって。  ……四ノ宮のこと、好きなの?  和希のことが褪せるくらい。  そういう意味で、四ノ宮のことが、好き?   ……そう思うと。  今までのたくさんの四ノ宮が、浮かんできてしまう。  大混乱しそうで、オレは一度、ぶる、と頭を振ってから、真斗を見つめた。 「えっと……真斗、あの……バスケお疲れ」 「あ、うん。ありがと」 「表彰されたの、すごいよ。ほんと、頑張ったよね」 「ん。まだこれからも頑張るよ」 「応援してるから。……あ、これ、おみやげね」 「なんかすげーたくさんだけど?」  クスクス笑いながら、真斗が受け取る。 「遊園地と合宿、両方買ってきたから」  そう言うと、「遊園地行ったんだ?」と笑いながら。 「ありがと。……奏斗、家、寄らない? 親父は仕事で朝出て行ったから、居ないよ? そう思って、ここの駅で待ち合わせたんだよね。カズくんに会うとは思わなかった」 「あ、でも今日、友達と試験勉強する約束があるんだ。また今度にする。母さんにもそう言っといて?」  そう言うと、真斗は、分かった、と頷く。 「カナがさ。カズくんと普通に向かい合えて、良かったかも」 「ん。ごめんね、心配かけて」 「全然。もう行くの?」 「うん。もう行く。またね?」  なんとか、真斗とは普通に話し終えて、電車に乗った。――友達の家には向かわずに、マンションのある駅に戻った。  すぐ帰る気にはなれなくて、駅ビルの端の方にある入ったことのない喫茶店に入り、奥に座った。  ……和希に会った時。  四ノ宮が浮かんで、心の中、すごく落ち着いた。  何でだろうなんて思ってたら、真斗に、好きな人居るか聞かれて。その瞬間。  ああ、オレは、四ノ宮のことが、好きなのかって。  突然、納得した。  もう和希のことは何とも思ってないって、ちゃんと分かった。  少し前までは、ものすごくつらかった思い出も、随分遠のいてて――――。  オレ、今はもう四ノ宮のことが好きなんだって、突然。  ある時、急に好きだって気づくとか、ないと思ってたのに。  ……和希に会った、あんな時に気付く、とか。 「――――……」  運ばれてきたコーヒーを見つめながら、頬杖をつく。  オレが四ノ宮を、恋愛の意味で好きなら。  四ノ宮の好きに対して考えるのは、ひとつ。  そういう意味で好きだって伝えて、付き合うかどうか。  ……付き合う? 四ノ宮と?  好きって伝えたら喜ぶだろうなと、思う。今の四ノ宮は、喜んでくれて、きっとしばらくは仲良く居られると思う。  でも――その後は? しばらく経ったその後。  ……オレに恋愛感情があるなら。  もう、四ノ宮とは居ちゃだめなんじゃないかな……。  どう考えても、住む世界が違う。家、とかだけの話じゃない。  四ノ宮はゲイじゃない。男に興味なんかないって言ってたのを、無理に付き合わせちゃった感じでここまできた。  オレには、四ノ宮に、普通の幸せをあげることは出来ない。  オレがそういう意味で好きなら、友達で居たいとかも、ますます言っていられないし。  ……このまま待たせるなんて、絶対だめだ。  四ノ宮の気持ち、受け入れていい訳がない。  そんな風に考えていたら。 『真斗に渡せた?』  四ノ宮から、ぽん、とメッセージが入ってくる。 『勉強終わったら、マジで帰ってきてもいいからね』 『食べて来なくても作るから。遅いなら、駅まで迎え行くし」  時間を置いて、なんこも入ってくる。通知だけで確認して、既読はつけないようにしたまま。ぼんやりと見つめていると、ふ、と口元が、緩む。  ――――ああ、なんか。四ノ宮って。ほんと、可愛いよな。  ずっと、一緒に居たいなと思ってしまう。

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