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番外編【諦めるか否か】大翔side 20

 何て答えたらいいのか分からなくて、奏斗と見つめ合う。  もう見られなくなると思っていた瞳が、急にまっすぐにオレを見つめてくるだけで、胸の中に良く分からない感情で溢れてて、何も言葉が出てこない。  そうしていると、奏斗がオレを見つめたまま話し出した。 「オレとじゃ、普通の幸せは無理だと思う。結婚して、子供とか、そういうの。……潤くん、すごい可愛くて……四ノ宮に似てて――――オレじゃ、そういう幸せはあげられないんだけど……」  ……潤? ……オレに似てて、可愛くて?  結婚とか、オレの子供のこととかも、考えてたのか。  オレが誰かと結婚して、オレに似た可愛い子供、作った方がいいって……。  それの方が幸せだって、決めてたのか。 「……それでも、いい? ……ってよくはない、と思うんだけど……」  続けてそんな風に聞いてから、でも、すごく困った顔をしてる奏斗。  そんなことに、そんな風に、迷ってたのかと思うと……。 「それはさ、奏斗」  オレは、奏斗の腕を掴んで、まっすぐに視線を合わせた。困ったように、揺れる瞳が――――ああ、なんか……家族と話してる時も出てきてたけど、本当にこういうので、奏斗は、オレを断ったのかと、不意に腑に落ちた。 「それは、オレだってそうだよ。オレと付き合ったら、そういうのはしてあげられない」 「でも、四ノ宮は、もともとは」 「もともとどうとか関係ない。オレ達、お互い、それはあげられないってのは分かってる」  はっきりそう言ったら、奏斗は、言おうとしていた言葉を飲み込んだ。 「それでも、オレは、奏斗に好きって言ってる。奏斗と居たい」  分かってもらいたくて、まっすぐに見つめる。  奏斗と離れてから色々考えた。  ――――奏斗以外の男にいく気はおきそうにないから、誰かと結婚して、家族を作っていくのか、とか。無理矢理そう思おうともした。けど。  奏斗は、静かに俯いて、少し唇を噛んだ。  少し待っていると、またオレと視線を合わせて、ゆっくりと唇を解いた。 「……オレ、四ノ宮と住む世界が違うとか色々思うし……四ノ宮は、オレと離れた方が幸せかもって、思う気持ちもあるし……言ってたこと全部に、嘘は、ないんだけど……」  そう言って、また少し黙る。  オレは、そっと、奏斗の頬に触れた。  何を言ってもいいよ、と思って。  ……本当に、何でも。  オレと奏斗が、別れるための言葉じゃないなら。  なんでも聞けるし、なんでも、どうにかできる気がする。 「でも……オレ、まだ、トラウマも、あったんだと思う」  もう一度、少しだけ唇を噛んで、オレを、なんだか一生懸命な感じで見つめてくる。 「……いつかまた、男じゃ無理って……四ノ宮にも言われるのが怖いって気持ちがあったのかも」 「――――」 「それで、離れようって言った、のかも……って……今、なんか急にそう思った……」  ……そうだったのか。と、ただ普通に思う。  和希に言われたことが、奥の奥に残ってて、オレがそれを言うかもって、心のどこかで、思ってたってことか。  ――――なんだか色々、腑に落ちていく。その都度、それを話してくれている奏斗が、どんどん愛しくなっていくような気がする。 「……ごめん、四ノ宮」  じっと見つめてくる奏斗。  数秒見つめ合って。……可愛くて、ふと気持ちが緩んだ。 「ごめんって何? ……何で謝るの?」 「いつか、無理ってお前に言われるの怖くて、逃げたんだと思う、から……ごめん」  オレがいつか、男じゃ無理だと言って奏斗から逃げる。そんなことがあるか、考えてみる。  奏斗に限って男が大丈夫なのは、もう分かってる。……ていうか、男とか女とか関係なく、奏斗が愛しい。  ……いつか、奏斗じゃ無理って、オレが言うなんてあるかな。  少し考えながら、まっすぐに、大きな瞳を、見つめていたけれど。  ふ、と心の中に、暖かいものが浮かんだ。 「……大丈夫だよ」 「……?」  こんな風に欲しいなんて思ったのは、奏斗だけだった。  男でも。面倒くさくても。好きな奴がいても。奏斗がオレのことを嫌いだとしても。  オレは、奏斗に幸せでいてほしいって、思ってた。  オレが、この手で、幸せにできるなら。  ……離すわけ、ない。 「オレと居れば、そのトラウマ、絶対なくなるから」  そう言ったら、奏斗は、「ありがと」とだけ言ってから、またオレを見上げてくる。 「でもね、その、怖かったのは……あの時のオレで……」 「……ん」 「……今、考えると、少し違う風に思えてる、かも」 「うん」 「付き合ったら、別れることはあるかもしれないけど……でも別れてもオレ、前みたいにはならないと思う。怖がって一人でいるより、離れようってならないように……大事にしたいって、思う」  奏斗はオレをまたまっすぐに見つめると、その右手で、オレの頬に触れてきた。 「四ノ宮のこと、今……オレが、幸せにしたいって――――思っちゃってるんだけど……いい?」  最後の方は、少し自信なさそうに、トーンが落ちて。  言うと同時に少し、首を傾げる奏斗。  可愛すぎる。嬉しすぎる。  ――――……その感情で溢れて、なんか、息が止まりそう。 「いいに決まってるし。――――言ったよね。オレ、奏斗が笑っててくれれば、幸せだって」  さっきまで泣いてくせに。――――天地ほど違う感情に、少し戸惑うけれど、それよりも。  オレがそう言った瞬間に、奏斗が嬉しそうに、ふわっと表情が緩んだのが可愛くて、なんだか自然と笑みが浮かんだ。 「奏斗」  引き寄せて、抱き締める。  奏斗と呼べることも。  触れることも。  抱き締められることも。  こんなに、嬉しくてどうしようもないなんて。 「奏斗がオレを、幸せにしてくれるの?」  腕の中に引き寄せた奏斗を、触れてしまいそうな至近距離で見下ろす。 「――――……」  またオレを、じいっと見つめて、数秒。 「うん。する。……幸せに、したい」  ふわ、と笑った奏斗に、我慢なんかできる訳も無くて。  唇を重ねた。

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