508 / 544
番外編【諦めるか否か】大翔side 19
「オレ、奏斗が居ないと、幸せじゃないけどね。……分かんない、かな……」
何かを話しながら、呼吸が震える――――とか、人生初な気がする。
体の。心の奥が、痛すぎて。
「奏斗と居たのは、ほんと短い間だったけど……一生居たいと思うくらい、好きだし。オレが幸せにしたいのは、奏斗だし」
「――――」
「……奏斗が居ないと、幸せじゃないのに、幸せでとか……言わないでよ」
言ってしまった。
全部。隠さず。
すげー、情けない、こと。
しかもなんか。
……涙声、になってて。
なるべくバレないように声を落として、言ったけど。
「……は。カッコわる……」
熱いものが、こみあげてきて。
奏斗みたいに、素直に涙をこぼすとか、そんなこと、オレには無いと思っていたのに。
奏斗に、最後に、笑顔を残そうなんて決めたくせに。
……ヤバい。
オレがマジで泣く前に、帰ってもらわないと。
「……ごめん、奏斗。帰っていいよ」
それだけ言うのに、精一杯、とか。
……ありえない。
精一杯で、こらえて伝えたのに、奏斗は、帰らない。
黙ったまま。なんか固まってるけど、そっちは見れない。
涙目なんて――――絶対、見せたくない。
「しのみや……」
奏斗が、オレの名前を呼んだ。
……あぁ、困ってるよな。
オレが泣くとか……きっと奏斗にとってもありえないだろうし。
……帰れないか。
いやでも――――早く帰って、と言おうとした時。奏斗が、抱き締めていた二号と紙袋を玄関に置いたのが分かった。そのまま空いた手で、オレの腕を掴んで、ぐい、と自分の方に引いた。
え。
とっさに、涙目のまま、奏斗を見てしまった。
奏斗は、眉根を寄せて、なんだかすごく、一生懸命な顔でオレを見上げてくる。逸らせなくて。
「奏斗、どうし――」
言いかけたオレの肩に、奏斗の手が触れて。さらに不思議に思った瞬間。
「――――」
奏斗の顔が、近づいて。
そっと、唇が……触れた。
――――は……?
目を、見開くしかできない。
……は? 何、今の。
キス、された? ――――何で?
こんな気持ちで……別れの、キスとかだったら……。
冗談、じゃないんだけど――――……。
一瞬は、そう、思ったのだけれど。
オレを見つめている奏斗が。
今にも泣きだしそうな顔で。
……縋るように、見つめてくるから。
キスの意味が、分からなくなった。
「かなと……?」
名を呼ぶと、奏斗が、何度か、パチパチと、瞬きをした。
オレは……涙なんか、拭きとんだ気がする。
「……あの」
ためらいがちに、漏れる言葉。
「オレ、四ノ宮と、ずっと居てもいい?」
――――ずっと、居ても、いい?
ただ驚いて、奏斗を見下ろす。
聞かれた言葉の意味は分かるけど。
……何それ。どういう意味。
――――キスしたのと、その言葉を重ねて受け取って、いいなら。
都合がよすぎる気がして……違う意味の可能性があるかを、考えてしまう。
すると、奏斗は、少し俯いた。
目を逸らされたことに、ますます違う意味を、探していると。
「……いっぱい、気になることあるけど、オレ、この世で一番、四ノ宮に泣いてほしくない。……笑っててほしい」
奏斗の、言葉。
――――……泣いてほしくないって。
笑っててほしいって。
「四ノ宮が幸せになれないなら、離れたくない。……四ノ宮が、オレと居て幸せなら、オレ、お前と居たい」
オレに顔を見せないまま、そう言った奏斗。
こんな風に言われたら。
都合のよすぎる言葉の意味にしか取れないけど。
つい今さっきまで、もう完全に、離れる決意を、してたのに。
「――――……ちょっと……」
声が、掠れる。
微かに、浮かんでる、都合のよすぎる期待と。
――――……まだ、期待するなという、臆病な、オレが居る。
「……顔、見せて」
奏斗の頬に触れる。
ぴく、と奏斗が震えたけど。
嫌がられはしなくて。
オレをまっすぐに見つめてくる瞳は。
オレが、ずっと、欲しかった、瞳。な気が、した。
さっき、蓋をしようとしていた、愛しいって気持ちが。
溢れてくる、そんな感覚。
奏斗に触れてる指が――――……震えそうだった。
ともだちにシェアしよう!