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番外編【諦めるか否か】大翔side 18
オレは、また少しため息をついてしまう。
最後の最後って時に、言いたいことではないけど――――。
「奏斗がそんなだから、オレがめちゃくちゃ可愛がって、大事にして、そういうの言わなくさせたいって思っちゃうんだろ。もう、今すぐ、そこ直してよ」
そこまで言ってから、オレは、最後にこれだけは言っておかなきゃと、奏斗を見つめた。
「あと、気になってるから最後に言うけど……今までいろんな奴と寝てたのは、別に汚点とかじゃないからね。浮気したとかでもないし、別に、しちゃだめなことじゃない。奏斗は、汚くなんかない。ていうか、めちゃくちゃ綺麗だし、可愛いから。二度と、そんなこと、言っても、思っても、だめだからね」
言わなきゃと思いながらも、最後に言うことがこんなことかとも思う。そう思いながら言っていたんだけど、奏斗があんまりにまっすぐに見つめてきて、それが――――すごく可愛くて。なんだか最後の方、思わず、可愛いとか言ってしまった。
マジで何言ってんだ、オレ。振った奴に最後に可愛いとかきれいとか言われても、奏斗も困るだろうに。
でも。……可愛いんだもんな。まっすぐな瞳が。
たまんなく、愛しい。
「分かった?」
奏斗を見つめて、自然と微笑んでしまう。
「……うん。……ありがと」
幾度か瞬きをして、奏斗は、少し頷きながらそう言った。
そのまま、二人で少しだけ無言。
オレは、そろそろもう限界かなと、奏斗を見下ろした。
「奏斗、ごめん、引き止めて。また……ゼミで、かな」
最後を告げる言葉。うまく笑えているだろうか。
オレを見た奏斗は、また頷くと、ドアの方を向いた。
奏斗。
呼び止めそうになって、自制した。
「雪谷先輩」
諦めるよ。そう伝えるつもりで、そう、呼んだ。
久しぶりの呼び方に、少し驚いたような顔で、奏斗が振り返る。
「次は、そう呼ぶから」
馬鹿みたいだな。自分で言っといて、心の奥が痛すぎるとか。
――――この呼び方を、寂しいと思ってくれたら、なんて思うとか。
……悪あがきすぎ。
オレは苦笑しながら、バイバイ、と手を振って見せた。
奏斗は頷いて、またドアの方を向いた。
――――……。
死ぬほど痛いな。心臓。
掴んで引き止めたい、けど。伸ばしそうになった手を、握り締めて耐える。
その時。奏斗がドアを向いたまま、「四ノ宮」と、オレの名を呼んだ。
「うん?」
「ありがと……あの――――オレね」
「ん?」
奏斗は、こっちを見ずに続ける気みたいで。
オレは、返事をした後は、黙ったまま奏斗の後ろ姿を見つめて、言葉を待った。
そしたら。
「四ノ宮が……ずっと幸せでいてくれたらいいなって、思ってる」
――――……。
何だか真っ白になった。
何言ってんの。奏斗。
ずっと幸せでって――――…… 今この時点で全然幸せじゃなくて、この先も、奏斗が居ないのに?
あー。なんかほんと。
……意味わかんないな……。
「あーもう」
大きなため息を、ついてしまった。
ため息はつかない、なんて。もう、無理。
「――――つか……」
出した声が、震えたのが分かる。
気づかれたのか、奏斗が振り向いてオレを見上げた。オレは、奏斗から顔を背けて少し俯いた。何もおかしくないのに、はは、と笑いが漏れた。
自分の中が。奥底が、こんなにも、震えるとか。
――――……ああ、もう、ほんとに。
「……もう……意味わかんないな……」
オレは今、笑ってるのか。笑ってるみたいな声にも聞こえるかも。
「四ノ宮……?」
奏斗が戸惑いまくった声でオレを呼ぶのを聞いて、やっぱり笑ってるわけじゃないか、と息をついた。
(2024/4/22)
やっと次……!
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