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番外編【諦めるか否か】大翔side 17

  「奏斗あのさ」 「――――」 「さっきごめん。関係ない、とか。ちょっと嫌な言い方した」  勝手な感情で、奏斗に当たるとか。 「ごめんね」  もう一度言うと、奏斗は、二号を抱き締めたまま、首を振る。  こうやって、これを抱いてくれてるとこ。  ほんと。可愛い。  ――奏斗。  ほんとは。  寂しい時、二号を側に、じゃなくて。  オレが、一緒に居たいけど。  それはやっぱり、奏斗が望まなければ、できないことなんだ。  離れるまで、かなり強引にいってた気がする。迫ったし、キスして、触れて、抱き締めて、オレの腕に抱く努力はした。断られても、こうして、色々話せた。  それでも――奏斗は、オレを選ぶとは、言わない。  二号を抱き締めてるのは、多分。  ……少しの切なさは、あるんだとは思うけど。  それでも、奏斗は、オレに側に居てとは、言わない。  そういうことだよな。思った時、奏斗が口を開いた。   「……いら、ない」 「え?」 「欲しくない」  抱き締めていた二号を急にオレに押し付けて、帰ろうとしてるらしい奏斗を、とっさに、腕をつかんで引き止めた。  ……は? なんで、抱き締めといて、急に捨ててくみたいな……? と思って、あぁ、そっか、と、さっき思ったことに気づいた。 「二号って名前が嫌なら、違う名前にしてくれてもいいから」  四ノ宮の二号みたいな名前、ずっと呼べないよな、と思って、そう言ったら、奏斗はなんだか、すごく眉を顰めた。 「四ノ宮が勝手に買ったんじゃん、オレ、いらないから」 「そうだけど、気に入ってたじゃん。持って帰って」 「いらない」 「欲しいって言ってたよね? なんなんだよ……置いてかれると、オレ、困る」 「何で困るんだよ」 「これ見ると、奏斗を思い出すから無理。持って帰って」 「――――っ」  もうそこは隠すこともできず、まっすぐにそう言った。  ……オレが好きなことはバレてるんだし、これくらい、言っても別にいいだろうと思ったし。そうしたら、奏斗は、眉を顰めたままで、二号に手をかけた。 「……分かった。持って帰る、から」  そう言いながらもう一度、二号を抱き締めたので、オレは、奏斗の腕を離した。  ……奏斗から手を離す動作が――――……辛いけど。  奏斗に触れると、離したくなくなる。引き寄せて抱き締めたくなる。  そのまま、ずっと一緒にって言いたくなる。  でも当たり前だけど、それは、奏斗が望まなければ、できない。  少し黙った後、オレは、奏斗に言った。 「オレ、諦めるから。いつかは」 「――――」  これは、本心。  ……ちゃんと、そうしなければって、思ってる。 「迷惑はかけない。……家も、引っ越すつもりだから」  それが一番いい。  ……偶然でも会ったら、奏斗のストレスになるだろうから。オレも、隣に居るのに会えないのは、きっと辛い。  ゼミも、二年からは別のゼミをとることも可能だ。そしたら本当に、奏斗との接点はなくなる。  ――そうするのが、奏斗にとっては、いいよな……。  優しいから、オレの気持ちに応えられないことに悩むかもしれないし。  やっぱり気まずいだろうし。  奏斗は、二号をまた抱き締めたまま、頷いた。  さっきから、二号をぎゅっと抱き締めてるって思ってたけど。  でかいから、抱えると、自然と抱き締めてるみたいになってるだけで、本当は、抱き締めたくはないのかなとも思ったりする。  いらなかったら捨ててもいいよ、と、言おうか迷う。奏斗が捨てにくいなら、オレが捨てることにした方がいいのかなと、考えていると。  奏斗が二号をぎゅーと抱き締めたまま、ゆっくり話し始めた。 「……オレ、四ノ宮と居られて、良かった。なのに、ごめんね、オレのことなんか、好きって言ってくれたのに」  オレのことなんか、というその言葉に、二号のことは頭から搔き消えて、オレは奏斗を見つめて、思わずため息。 「なんか、じゃないし」 「え?」 「オレのことなんか、って、言うなよ」  そう言うと、奏斗は、オレを見上げた。  自分のセリフの意味に気づいてなさそうな奏斗に、つい、しかめ面になってしまう。 「オレ、奏斗が大好きだけど、そこは嫌だ」 「――――」  不思議そうに、少しだけ首を傾げる奏斗。 「オレのことなんかって思うの、ほんと直して」  そう言ったら、やっと意味が分かったみたいで、オレを見つめたまま、小さく頷いた。 「心配なんだよ。そういうとこ。何でそんな、可愛いし、人良いし、皆にも好かれてんのに、オレなんかって言うの? だからほっとけないって思うんじゃん」  奏斗は、返事をしない。じっと、オレを見つめてる。

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