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番外編【夏祭り】33 *奏斗
ちょっとため息をつきそうになりつつ、四ノ宮の向かい側に座ろうとしたのだけれど、ふと、思いついた。
「――奏斗?」
自分のご飯のお皿を、四ノ宮の隣に運び始めたオレに、四ノ宮は不思議そうに名を呼んだ。でもすぐに、クスクス笑いながら、自分のを少し端に寄せて動かしてくれた。
二人分の食事をちゃんと並べてから、オレは四ノ宮の隣に座った。
……四ノ宮んちのテーブルで隣に座るたびに、何で四人掛けで隣なの、とか言ってた過去の自分を思い出す。
もしあの頃のオレに見られたら、何て突っ込まれるだろうと思いながらも――隣でニコニコ嬉しそうな四ノ宮を見たら、きっと許してくれるんじゃないかな、とも思ったりしていると、四ノ宮が嬉しそうに話し始めた。
「オレ、今日だけで、ほんと何百回も思ってるんだけど」
「何を?」
「奏斗が可愛すぎて、困るっていうかさぁ……」
「……何百回も?」
「うん、多分、それくらい思ってた気がする」
はは、と笑う四ノ宮に、何と返事をしていいか分からず、ちょっと苦笑してしまうけど。
「デートって、こんなに楽しいものなんだなーって、ずっと思ってた」
そんな風に言う四ノ宮の言葉には、完全に同意。
――――うん。ほんと。楽しかった。
まあオレの場合、デート自体が、いまいち……和希と幼馴染という立場こみで、遊んではいたけど。デートっぽいデートを改めて、は無かった気もするし。
こんな風に、「デート」が幸せだとか思うのは、なんかものすごく照れ臭いけど、それ以上に嬉しくて、ふ、と微笑んでしまう。
「なんかイメージ的に猫みたいだった奏斗が、自分から隣に座ってくれるとか」
「猫? オレ?」
「なんかちょこちょこは寄ってくるけど、近づくと警戒心むき出しというか。そんな感じだったし」
四ノ宮の手が伸びてきて、頬に触れる。すりすりと撫でてから、オレの頭を撫でながら、ふ、と笑う。
「とにかく今、嬉しすぎて、困るかも」
「――――っ……恥ずかしいから、とりあえず食べよ」
「恥ずかしいから?」
クスクス笑いながら、四ノ宮は手を離して、食べよっか、と笑ってる。
…………ていうか。オレ、猫のイメージだったのか。
オレにとって、四ノ宮のイメージって、なんだっけ。
あ。うん。そか。
「うさんくさい」だな。
笑顔も。言葉も。なんか全部、うさんくさい。とか。すごいこと思って避けてたっけ。
ちら、と四ノ宮の方に視線を向ける。
気づいてすぐオレと視線をあわせて微笑む四ノ宮。
「でも、あれだな。ちょっと前は野良猫な感じだったけど、今は甘えんぼの猫ちゃんみたいな感じ」
「――――……は?」
「ん?」
「つか、甘えんぼとか、それはやだ」
「えーだって撫でると気持ち良さそうだし。奏斗は可愛い猫のイメージはそのまんまだけど」
「む……」
ちょっと睨んでみるけど、全然物ともせず、手を伸ばしてきて頬に触れて、首筋まで撫でる。
一瞬で、和んでしまいそうで。オレは、ぶる、と首を振って避けた。
「ほら、可愛い」
四ノ宮は、なんだかすごく嬉しそうに目を細めながらクスクス笑い、そっと手を引いた。
そんな風に見てくるのも……ほんと、ずるい。
オレ、ドキドキしすぎだ。
(2025/4/5)
二人のゆっくりな甘々。書くの楽しすぎて…(´∀`*)
皆さんにも楽しんで頂けてるといいのですが…♡
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