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誰かの未来或いは過去1
《ある男の憂鬱》
あの日から眠るという行為は俺にとっては苦痛になった。
悪夢をよく見る。
あぁ.....身体が痛てぇ。
身体の内側から無数の針で刺されているような痛みだ。その次に訪れるのは身を焼かれるような痛み。鼻を突く肉の焦げる臭い。その次は身も凍る程の寒さ。
氷砕ける自身の指を眺める。
もう慣れた。痛みで涙を流すことも、臭いに嘔吐くことも、自身が欠けていく恐怖も....。
何も、何も感じない。
だからといってそのまま眠れ続けるのかと聞かれればそんなわけねぇだろ吐き捨てるが。一連の痛みが終われば自然と目が覚める。
最初は眠る度に気持ち悪さで起きたもんだ。起きた瞬間吐くとかざらにあったし、眠った気にもなれず目の下にクマは当たり前.....。
......これなら眠る意味は無いな。
それに気づくと俺は眠ることを止めた。そのせいで世話係に『目つきが日に日に凶悪になってるぞ』と言われたが.....しょうがねぇだろと言いたい。まぁ、変わりに蹴りを入れてやったが。
今日も今日とて俺は眠らず屋敷内を彷徨う。
ふと襖を開ければ夜空に浮かぶ月が見え、懐かしい気持ちが沸き起こった。
こんな糞みたいな家に生まれ、眠るのが怖くなり首から下げた十字架を握りよく月に祈っていたものだ。神様どうぞお助け下さいってな。
俺をこの家から出してください。
安らかな眠りをください。
家の人間が死にますように。
糞親父を惨たらしく殺してください。
ありとあらゆる呪言を吐き散らかし、神に祈った。
だが結果は?
神なんて居ねぇ。
それが結果だ。....クソが。
「アイツはどうだ?成功したんだろ」
「はい、成功しました。今は眠っている状態です。時折魘されているようですが、瑣末事でしょう。どうします?」
「目が覚めたら狩に行かせろ。どれほどの力なのか記録しておけ」
耳を澄ませばそんな話が聞こえた。眠ってなんかいねぇのにな。アイツは俺の何を見てそう報告してんだ?
それに、どうやらアイツらはとことん俺を使い潰すつもりらしい。
まぁいい。今となっちゃもう、全てがどうでもいい。
「× × × × 。....チッ、やっぱ来ねぇか」
始動しても反応がない。
...わかっていたことだ。落ち込むことは無い。そう自分に言い聞かせて気持ちを切替える。
「.....」
今度は自身の一部を変えるように念じた。すると変化があった。右腕の肘辺りから指先が刃へと変わったのだ。
「こうなるのかよ。...人間相手には意表をつけるだろうが、間合いが短くなったな」
斬りつけて戦うには不便になったが、自分の欠点にはなり得ない。
「めんどくせぇ」
今後のことを考えると憂鬱になりそうだ。
でも憂 いても鬱 っても俺の未来はきっと変わらねぇ。
飼い殺されるだけだ。
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