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「弥斗 っ、起きろ!」
「ん....なにチビ?」
「チビって言うな」
弟に起こされ、伸びをする。
なんだか懐かしい夢を見ていたような、見てないような.....多分見たんだろうな。
だって、胸が懐かしむようにキュッとするし、弟の顔を見て『大きくなったなぁ』って思ったから。......本当に大きくなった。僕より小さかった弟はもう並ぶくらいまで背がある。
これはいつか越されるなーとぼんやり考えていたら目の前にずいっと弟の顰めっ面が。
「どうしたのチビ?」
「どうしたのじゃねぇだろ。もう、俺達しかいない」
その言葉にあぁ、そうだったとぼやく。
僕のお父さんとお母さんは殺されたんだった。
僕達の7歳の誕生日を祝うためなのか、共働きである両親が珍しく朝から家にいた。ケーキに、飾り付け、みんなで楽しくパーティの準備をしていたのに......
『誰だテメェら!?』
『っ、弥斗!チビを連れて逃げろ!!』
突然家に入ってきた男達にお父さんとお母さんは腰に差していた魂写棒を始動して戦い始めた。
必死に応戦して僕達を逃がそうとしてくれたんだ、お父さんとお母さんは。
鳴り響く剣戟と物が割れる音。
悲鳴と怒号。
青い炎が立ち上がる。
吐く息が白くなる。
僕は必死に戦う両親を尻目に弟の手を引き逃げ出した。
最後に振り向くと身体中傷だらけで今にも死にそうな両親が僕達の後を追わせまいと道を塞いでいる姿が見えた。
お父さんとお母さんはきっと助からない。
とにかく逃げなきゃ。弟を安全な場所へ。
そして逃げ込んだのは公園の草むら。息を潜ませ、追っ手が来ないか草むらの間から覗く。
しかしいくら時間が経っても誰も来ない様子だったから僕は緊張の糸が切れて眠ってしまった。
伸びをし、我ながら無防備だったなと少し反省。
「チビは大丈夫?」
そういえば、チビは大丈夫なんだろうか?目の前で傷だらけの両親を見捨て、自分達だけで逃げるなんて.....普通ならトラウマものだよね。
だけど、僕の弟はケロリと「なにが?」と言う。
「その、お父さんとお母さんが目の前で.....」
「それが?俺は弥斗さえいれば生きていける。弥斗以外どうでもいい」
「(絶句)」
言うが僕達の両親は決して毒親ではない。共働きだったが、必ずどちらかが家に居るように仕事を調整して僕達の相手をしてくれていた良い親に分類される人達だ。
弟も笑顔を見せ楽しそうに遊んでいる姿をこの目で見たこともある。それなのに.....そんなことを言うなんて。
強がりで言っている様子もなく、ただ淡々と当たり前のように弟は言う。
身体がブルりと震える。
その弟の姿にうすら寒いものを感じた。
「弥斗?」
「ぁ....チビ、あのねーー」
弟にとにかく何か言おうとしたその時、
ピピピピピピピピと音が小さく響いた。
僕は口を閉じてポケットに手を突っ込む。
「スマホか?」
「うん。逃げる時咄嗟に持ってきたお父さんのスマホ」
そう答えながら目を落とすと、画面には『友人1』と表示されていた。
お父さんの友達.....。
とりあえず画面をタッチして電話に出る。
今の僕達には庇護者が必要だ、電話の相手に保護してもらえないだろうか?
いや、お父さんの友人ならきっと助けてくれるはず
「はい、高松です」
『......誰だ貴様は。いや、待て。お前あいつの子供か?』
この電話から僕達の人生はガラリと変わる
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