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《side チビ②》
「っ違ぇ!!」
勢いよく起き上がりそう叫ぶとズキリと頭が痛んだ。咄嗟に手をやると、頭に包帯が巻かれていることに気づく。
「ここは.....」
見渡すと見慣れぬ高そうな内装の部屋に、ベッドに横たわっていた俺。
つまり、あの決闘の後の.....
「お目覚めですかな?」
俺以外誰もいないはずの部屋に響いた声にばっと振り向く。
「おはようございます。よく眠れましたか?」
そこには藤間のじじいが穏やかな笑みで立っていた。
手には救急箱を持っており、どうやら俺の包帯を取り換えに来たらしい。
だが、そんなことよりーー
「弥斗はどこだ」
「.....」
「弥斗はどこだって聞いてるんだ!」
俺が聞いてんのに藤間のじじいはただ微笑むだけだった。.....ムカつく。
答えぬ藤間に聞くより俺が探しに行ったほうが早そうだと思い、ベッドから降りようとしたその時「弥斗様はもう既にこの屋敷を出ました」と藤間は口にした。
「は?弥斗が出ていった?」
このじじいが何を言っているのかわからなかった。弥斗が出ていっただと?そんなの.....そんなのありえねぇだろ。
だって、だってっ
「弥斗が俺を置いていくはずねぇんだよ!!」
いつも一緒だった。何をするにも一緒だった。
弥斗が俺を置いていくはずなんてないんだ。だって、たった一人の家族なんだぞ?優しい弥斗が俺を1人にするようなことするわけねぇじゃねぇか。
「貴方様は弥斗様との決闘に負けたのです。その意味はおわかりでしょう?もう一度言います。弥斗様は貴方様を置いて出ていきました。.....受け入れてください」
受け入れる。
「.....そうだったな。俺は負けたんだ。だから弥斗は.....」
わなわなと口が震える。その先の言葉を言おうとしても、何かがつっかえたように声が出せなかった。口にできない。口から認める言葉を吐くことが出来ない。
それを言ってしまったら俺は終わってしまう。
「っいやだ!できない....認めない!」
だから否定する言葉を吐いた。
でも、別にいいじゃねぇか。嫌なもんを嫌って言っても!認めたくないことを認めなくても!
(っ、なんでそんな憐れむような目で見るんだ!?)
藤間の視線に吐き気がする。
「.....可哀想に。ゴホン、そんな貴方様に弥斗様から伝言がございます。こちらをご覧ください」
藤間から差し出されたスマホを受け取る。
見ると、画面には録画されたであろう弥斗の姿があった。
ぐちゃぐちゃな感情のまま画面をタッチする。
『起きた?おはようチビ。僕は違う家の子になったけど、だからといって僕とチビの血の繋がりはなかったことにはならない。だから怖がらないで。離れ離れになったけど置いていった訳では無いから!普通の距離に戻るだけだから!だから間違っても危ないことはしちゃダメだよ?藤間さんにチビと同じ小学校に通えるよう手配してもらったから次に会うのは小学校ってことになる。それまでに怪我治して、元気でね。じゃあね!』
動画はそれで終わりだった。
俺はスマホをギュッと両手で掴み胸に当てる。
本当は目が覚めた時から気づいていた。一人ぼっちで目覚めた部屋の中、いつもそばに居た温もりを感じなかった時点で、弥斗が出ていったことはわかっていた。理解していた。
だが、それを見ないふりして認めないことにした。
俺が弱いがために。受け入れる強さが無かったがために。
「今の動画を見て何を思いましたか?」
じっと俺を見つめて藤間がそう聞いてきた。
「....俺は弱い。動画の言葉がなかったら今もそばに弥斗が居ないことを受け入れられなかったと思う」
瞳を閉じれば手を差し伸べ、俺の手を引く弥斗の後ろ姿が今も瞼に焼き付いている。それも鮮明に。
でも、目を開くとここに弥斗は居ない。
それはーー
「俺が負けたから弥斗は出た行ったんだ。俺が弱かったから弥斗を引き止めれなかったんだ」
「......」
「俺、強くなるよ。弥斗が俺から離れないように、繋ぎ止めれるように.....置いていかないように」
「それはそれは.....とてもαらしい答えですね」
苦笑いで藤間はそう言い、そして俺の前で膝を着いた。
「この藤間、精一杯坊っちゃまに尽くさせていただきます」
坊っちゃま呼びに顔を顰めるが、言っても直らなさそうなため流すことにした。
「そうか.....なぁ、藤間。俺は弥斗とずっと一緒に居られるか?」
「それは坊っちゃま次第でございます」
あぁ、早く強くなりたい。
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