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僕が弟と違う家の養子になってから2年経った。 お義父さんとお義母さんは優しい人で僕をめいいっぱい可愛がってくれる。 この前なんかボソッとピアノ弾いてみたいな....って呟いただけなのに次の日には空き部屋にピアノが置いてあるのを発見した。2人に聞いたら「サンタさんかな?」とか「きっと神様がくれたんだよ」って言っていたけど僕には通じない。 嬉しかったけど、今度から気軽に「~したい」とか言わないようにしようと僕の心に強く刻んだ日になったなぁ。 小学校はまぁ順調といったところ。望み通り弟と一緒の学校に通うことができた.....が、クラスは違う。僕にとっては喜ばしいことなんだけどあの子は毎時間僕のクラスに来ては入り浸るため、最近頭を悩ませている。 しかしそれだけじゃなく、 「おい、弥斗に近づくな!この不審者!」 「ふ、ふしっ!?ち、が....お、俺は....~っ」 弟に不審者呼ばわりされた僕のクラスメートはチラチラと僕を見ては口をハクハクさせ、しまいには脱兎の如く教室から飛び出て行ってしまった。 僕の頭を悩ませるもうひとつがこれ。 弟は番犬よろしく、僕に近づく人間に吠えて罵倒して威嚇して追い返しているのだ。 そのせいでまともに喋れる友達が2年経ってもまだ居ないという状況。隙あらば弟がそばに居るためみんなに話しかけに行きづらいし、みんなから話しかけられないしで本当に困っている。 「ちょっとチビ。ヒナちゃん逃げちゃったじゃん」 「っ、なんでヒナちゃんって呼んでんだよ!俺はチビなのにっ」 (この子はどこにヤキモチを妬いているの??) そう内心首を傾げながら「じゃあチビちゃんで」と言うと弟は「そういうんじゃねぇよ!」と怒ってきた。なぜ怒られたのかわからない。 その時教室にチャイムが鳴り響く。 「ほらチビちゃん、自分の教室に戻って」 「.....先に帰るなよ。絶対に」 「うん、ほら行った行った」 未練がましくこちらを振り返ったりしながら渋々教室を出て行く弟の姿に頭を抱える。 (これは悪化してないかな?) 弟の執着心を薄れさすために離れ離れに僕達はなった。いきなり全く会えないとなると、逆に更なる執着心を抱かせてしまうのでは?と思い、小学校で会えるようにして私生活から離れるようにしてみた。 その結果が弟のストーカー化兼番犬化である。 いや、ストーカー気質なのはもう手遅れかもしれない。幼いころ(今も幼いが)は僕が弟の後を着いて回っていたが、それはまだ理解が及ばない弟に危険が及ばないようする為の行為だ。それも時が経てば辞めるつもりのもの。 しかしいつの間にか立場が逆転していた。 とてとてと後を着いてくる小さな弟はまだ可愛いく、僕としてもほっこりしながら相手できた。だが、どうだろう?今では色んな感情がドロドロに煮詰まったようなこちらが身震いするほどの視線を向け僕の後を着いてくる。 明らかに悪化している。 (なんかこう......身の危険を感じる) そう頭を悩ませていると「や、ややや、やと....」と話しかけられ、顔を向ける。 「あれ?ヒナちゃん戻ってきたの」 話しかけてきたのは僕の隣の席のヒナちゃんだった。今の僕に話しかけてくれる、話せる唯一の友達だと自分は思っている。ちょっと挙動不審だけど。 「きょ、きょう.....おっ、おれ、俺も.....い、いいか?」 「?.....それは放課後一緒に遊んでもいいかってこと?」 僕がそう言うと、ヒナちゃんは勢い良く首を縦に振った。どうやら合っていたらしい。 「うん、遊ぼっか」 「っ、~っ!!」 嬉しそうに笑うヒナちゃんに犬のシッポの幻影が見えた気がした。それはもうブンブン振り回す幻影が。 (かわいいなぁ) 弟もこれくらい純粋に僕を慕って(?)くれればいいのにと思うが、手遅れなため考えるだけ無駄だなと悟る。 因みに僕が言う『遊ぶ』というのは聖域を出て貪る影(カタラ)を狩りに行くってことだ。聖域に居る限りカタラは入ってこないため安全だが、自身の異能を磨くことが出来ない。 自身の特別な力が宝の持ち腐れになってしまうっていうのは勿体ないことだと僕は思っている。異能持ちは数少ないが、今も聖域を侵食するカタラに対抗するために異能者達は駆り出されているのだから、今の内に鍛えて生存率をあげる努力をしても損は無いはずだ。 僕と弟は今は一般の小学校に通えているけど、今後はどうなるかは分からない。いや、僕はともかく‪α‬である弟は絶対に専門学校に入れられるはずだ。 まぁ、普通‪α‬で異能持ちなんて異能者をまとめる五大家がほっとかないだろう。.....たとえ逃げたとしてもどういう訳か必ず届くらしいのだ学校への推薦状が。 恐ろしい.....。 (でも、まさか一般の小学校に他にも異能持ちが居るとは思わなかったなぁ) 未だにしっぽを振っているヒナちゃんを見て思う。ザントかサナートか、はたまたヴァイスか.....。 今日のカタラ狩りが楽しみだ。

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