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あの日から.....シュウさんと出会って恐怖の一日を過ごした日から僕は気の休まらない日常を送っていた。常に持ち歩くことになったスマホに、いつ鳴り響くか分からない電話と通知。
メールは毎日届き、電話も毎日鳴る。
辛かった
メールはまだ間接的だからいいが、電話はダメだ。シュウさんの声の低さや話し方でそばに居ないのにいちいちビクビクしてしまう。しかもなんの嫌がらせか着信音がベートーヴェンの運命に設定されているという.....最初聞いた時スマホを投げつけたくなった。
「弥斗さん大丈夫か?」
「!ぁあうん。大丈夫だよ?どうしたのクロウちゃん」
いけないいけない。学校ではいつも通りに振る舞わなきゃ。
スマホのことを頭の隅に追いやり僕を心配そうに見つめるクロウちゃんにニコリと笑みを見せる。すると彼はホッとしたように表情を緩めた。
クロウちゃんは弟の弥斗接近禁止令によってできた友達だ。同い年なのに何故か僕のことをさん付けで呼ぶ。
「弥斗さんに聞きたいことがあるんだ」
「なになに?」
「よくこのクラスに来てた隣の奴....最近見ないから喧嘩でもしたのか?」
隣の子と聞いて一瞬はてなマークが浮かんだが、すぐに弟のことだと気づく。
「喧嘩とかじゃないよ。ほら、なんというか近づきずらかったでしょ?あの子、僕に近づこうとする子をやたらめったら威嚇するから.....僕がこの学校に来て2年経っても友達が作れなかったのはあの子のせいと言っても過言ではないはず。だから少し距離を置いてお互い友達作ろう!って期間にしたんだ」
「あぁ~なるほど」
ウンウンと頷くクロウちゃん。でも直ぐに彼は「だが、みなが弥斗さんに話し掛けなかったのはそれだけが原因じゃないと思うぞ」と口を開いた。それも苦笑い気味に。
「え、どうして?」
「それは.....弥斗さんは超越してるから.....」
「超越??????」
「なんというか、世俗とは無縁そうというか、人間に見えないというか、次元が違うというか.....」
えっ.....それはなんか傷つく。皆からしたら僕は人間に見えないってこと?
というかクロウちゃん難しい言葉使うね。世俗とか普通小学生使わないと思うよ?
冗談で言っているのかと思ったが、クロウちゃんが真剣な顔をして言っているので皆からしたら僕はそう見えているということなんだろう。
つまり、僕が浮世離れしているから話しかけずらかったというわけだ。弟がそばに居るのだけが原因ではなかったらしい。
「そっか~.....僕も原因だったんだぁ」
「だ、だけど弥斗さんは話してみると優しいし、落ち着くぞ?俺は話してて楽しい!」
「......ありがとクロウちゃん~!だけど僕のことをさん付けで呼んでるのってもしかして歳上に感じるから?」
「あ''っ......いや、別に.....」
図星ですね。
クロウちゃんはわかりやすく僕から顔を背けた。
「そ、そうだ!弥斗さんは中学どこ行くんだ?」
「中学?まってまって.....今僕9歳だよ?そんな先のことまだ何にも考えてないよ」
露骨な話題逸らしに爆弾をぶち込まれた。もしかしてクロウちゃんは中学受験とかの準備をしているんだろうか?
家族内でもまだそんな話が出ていないからきっと僕はそのまま近くの中学校に行くことになるかな。
「.....意外だ。弥斗さんなら将来まできっちり考えていると思ってた」
「何言ってるの.....僕だってみんなと同じようにパン屋さんになりたいとか漠然とした考えしかないよ。いや、別にパン屋になりたいわけじゃないけど....。そういうクロウちゃんは中学校どうするの?」
「俺は......」
そう言ってクロウちゃんは黙り込んでしまった。それも口をきゅっと結び、辛そうな顔で。
これは踏み込んでしまったかな?と内心焦りながら僕は口を開く。
「僕は異能力者だから専門の学校に入れられるかもしれないなぁ」
「弥斗さんは異能力者なのか!?あっ、悪い....大声あげてしまった」
「あれ?知らなかった?まぁいいよ。隠してないし」
「隠してないのか.....。だが異能力者なら中学は専門のところに入れられるだろう?まずこんな普通な学校に通っていることすらおかしい。もしかして弥斗さんは後天的な異能力者か?」
後天的な異能力者
それはなんの異能も持たない両親から産まれた子供が突然異能に目覚めることだ。後天的に異能が目覚める確率は低いとされているが、ない訳では無い。目覚める者は必ず高校卒業までには目覚めるといわれている。
因みに片方が異能力者で片方が一般人の親を持つ子供は必ずしも異能力者ではない。その子供が先天的に異能をもって生まれる確率は驚くほど低く、また後天的に異能に目覚めるのはなんの異能も持たない両親から産まれた子供が突然異能に目覚める確率と同じくらいだという。
だからなのか、異能力者は異能力者同士で子を作ることが多い。
閑話休題
クロウちゃんが後天的の異能力者かと聞いてきたのは、後天的ならば1年準備期間を貰えるからだ。自身の異能と周りの人間との向き合いを兼ねての期間だ。だから異能力者が一般の小中に通っていてもそうおかしくない。
まぁ、高校は向き合い期間などなしでぶち込まれるのだが。
「いや、僕の親は両方とも異能力者だよ」
「??じゃあなんでこんな学校に.....」
「僕はさぁ異能力者の前にβなんだよね」
「!?!?!?えっ、は!?」
「?.....そんな驚くようなことかな?あ、まさか僕のことαだと思ってた?」
そう聞くとクロウちゃんはブンブンと頭を横に振り「てっきりΩだと....」と呟いた。
それは聞き捨てならないな。僕がΩだって?
自身の感情が表に出ないようにグッとこらえて「あははは」と笑い流す。
「ゴホン!で、僕はβだから高校までに専門のところに入ればいいから小中は一般のところでもいいんだ。αやΩだとこうはいかないだろうけど.....βの特権だよね」
「あ、あぁ。βなら一般のとこに通っててもおかしくないな.....」
「でもさ、思うんだけど.....Ωとαってβより少ないじゃん?なのにΩとαはよっぽどの理由がない限り幼等部に入らなきゃいけないのってなんかナンセンスだよね。まず、数が少ないなら大事にしないとって思わない?」
「?.....だってαとΩは特別強い異能が現れるんだから仕方ないだろ?それを使わずに、大事に仕舞っとくなんて非効率だ」
「いや、将来性を考えてみてよクロウちゃん。カタラのせいで最前線で戦うαやΩがどんどん死んでいってるんだよ?異能持ちのαやΩが絶滅しちゃうかもしれない」
「そんな大袈裟な.....」
「あははは。ほんとに''大袈裟''で片付けられるといいね、僕が言ったこと」
クロウちゃんには言わないけど、異能力者が通う学校ではバンバン人が死んでるらしい。それも異能力者同士が殺しあって。
本当にナンセンス。
僕達の敵はカタラなのになんで異能力者同士殺し合わなきゃいけないんだ。強い異能力者を作る為に弱肉強食を掲げるのはいいけどやり方を間違えている。ま、だからといって僕ができることはないけど。
だって僕はただの異能持ちのβだから。
「だが、もし弥斗さんが言うようにαやΩが絶滅したらこの世界は終わってしまうな.....」
「あははは.......βがαやΩの盾に使われる日が来るのも遅くないかもね」
「っ」
「なーんてね!!冗談だよ~、そんな日が来るわけないって!」
「だ、だよな......」
クロウちゃんは笑っているがその笑みは引きつっていた。僕としてはそんな日が来ようともどうでもいいんだけどね。
世界がどうなろうと受け入れることしかできないんだし......
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