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クロウちゃんと楽しくおしゃべりしていた時のことだ
ブーッ、ブーッ、ブーッ......
ポケットに入れていたスマホが振動した。
ギクリと肩が揺れる。
きっと、いや絶対にシュウさんからだ。
僕はクロウちゃんに断りを入れてスマホを見る。
そしてそこには案の定シュウさんからのメールが届いていた。
内容は夜メシ奢るとのことだ。
もう辛い.....ご飯も気が休まらないとかほんと無理
「弥斗さん凄い顔してるぞ......メールがどうかしたのか?」
僕の顔はあまりにも酷かったらしい。自覚はないが、クロウちゃんにそう言われるほどなんだから相当なのだろう。
これも全部シュウさんのせいだ。
「いや、なんでもないよ。ちょっと驚いただけさ」
「そうか?最近の弥斗さんはスマホを手にする度に怖がっているように見えたから....」
す、鋭い。
.....僕のポーカーフェイスもまだまだだな。
これもシュウさんが怖いのがいけないんだ。
つまり全部シュウさんのせい。
「何言ってるの~!僕が何に怖がるって言うのさ。クロウちゃんの見間違いだよ。.....でも最近昔の友達と連絡とっててさ。その子とちょっとギスギスしてるんだ。それでスマホ見るのが怖かったっていうのはあるかも。......心配してくれてありがとうね」
「いや!?べ別にっ、お礼言われるようなことではない!気にするな.....それで大丈夫なのか?その友達というのは」
「うん大丈夫!今日はまだ無理だけど、近いうちに話し合おうと思ってるから......」
今はまだ無理.....シュウさんのことが怖いから。
取り敢えず、あの人の地雷や僕に近づく理由を知らなきゃいけない。じゃないと多分.....下手したら僕殺されるんじゃないかな。
「あぁ、早く仲直りした方がいい。そういうのは時間が経つほど拗れるものだからな」
仲直りか.....それは的外れな言葉なんだけど、言わなくてもいいか。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
放課後、僕はシュウさんに抱っこされオシャレな繁華街を歩いていた。
学校が終わり家に帰る途中、いきなり横に車をつけられ中に引きずり込まれたのだ。そして気づけばシュウさんの腕の中でこんな状態に......。
「何食いてぇ?前はイタリアだったからなぁ、中華にするか?それとも和食か?」
「えっと、普通のファミレスでいいです」
「んじゃ、お好みにしようぜ」
僕はファミレスがいいって言ったのになんでお好み焼きになるんですかね?
最初から僕の言葉聞くつもりないじゃないですか。
(結局お好み焼き屋かぁ......)
個室で二人っきり.....食べに行くと毎回個室なのはどうなんだろう。しかもシュウさんの足の間に必ず座らされる。
ジュウジュウと音を立て美味しそうな香りを漂わせるお好み焼きを前に不満と居心地の悪さで僕の気分は下がっていく。
「ほら口開けろ。....熱いから気をつけろよ」
シュウさんに言われた通り口を開けると、お好み焼きが放り込まれた。
はふはふと食べながら思い出すのは今日クロウちゃんと話したこと。『時間が経つほど拗れるものだからな』とクロウちゃんは言っていた。
そういえばこんなことになってからもうすぐで1ヶ月経つかもしれない。
そして気づく。
1ヶ月経てば放課後にこうやって食べに行くことが出来なくなる確率が高くなることに。
それは.....弟の接近禁止令が解かれるからだ。
(ヤバい。どうしよう....チビちゃんのこと忘れてた!)
だが、弟も以前と同じように僕にベッタリというわけではないだろう.....彼にも友達が出来ているはずだ。
しかし僕の中には『もしも』という感情が渦巻く。
もしも、弟が以前より僕への執着心を酷くさせていたら?
僕は弟とシュウさんを相手できるだろうか?
(無理だ.....)
そう思い至り焦ってしまった。
この時の僕は本当に後先を考えれていなかった。ただ、弟という悩みの種とシュウさんという恐怖の種から逃げたい一心で口走ってしまったのだ。
「あのっ、もうこういうのやめませんか!?」
「あ?」
「嫌なんです!貴方からの電話やメールに怯えて生活するのはっ」
「.....」
「だからもう、僕に関わらないでください!」
『言ってやったぞ』という達成感と『この後どうしよう』という焦りが頭の中でグルグル回る。
僕は馬鹿だった。
今僕が誰の腕の中にいて、どういう状況にいるのか。
全く見えていなかった。
だから.....
「おぉそうかそうか。よし、いっぺん寝てろ」
「ぐっ!?」
首を絞められた。
後ろから抱きしめるように彼の腕が僕の首に巻き付き、そのせいで徐々に圧迫される気管。
(なんだかよく首を絞められるなぁ!!ちくしょう......やらかした)
自分がやらかしたのだと気づいた時にはもう遅い。
「お前が悪いんだぜ?俺はちゃーんと優しく接してきたつもりだったのによぉ。それをやめてくださいだなんて.....ひでぇなぁ」
「っ、っ!」
「はぁ、これなら最初から手ぇだしときゃよかった」
その言葉を最後に僕の意識はなくなった。
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