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《side シュウの友人①》

私の友人が突然おかしくなった。 「.....いらっしゃいませ。お客様は何名様でしょうか?」 入ってきたのは黒いランドセルを片手に持った私の友人とその腕の中に居る子供。友人が連れている子供に思わず顔を顰めそうになるも、にこやかな笑みを見せる。 私がファミレスの定員をやっているのはこの目の前の男から突拍子のないメールが届いたからだ。 ただ一言。『××通りを封鎖して人員を配置しろ』と。その通りに住む人々を追い出し、不自然のないように人を入れ替える。いくら金と権力があるからといってそんな無茶を短時間でやるのは無理だ。そう普通なら....。 「2名様ですね。......こちらの席へどうぞ」 しかしそれをやってのけてしまうのがアイツの家なのだ。まぁ、やってのけてしまったせいで私はコイツが何をやらかすのか監視する羽目になってしまったが。後始末や尻拭いはいつも私の役目だ。 チラリと視線を落とすと友人の腕の中に収まる子供がいる。見るからに顔が強ばり怯えているのがわかり、少し気の毒さすら覚える光景だ。いきなり通りを封鎖しろと言われる前には『この子供を調べろ』と写真が送られてきたのだけど、まさか私が誰かに見蕩れることになるなんて思わなかった。 濡鴉の様に艶やかな黒髪に憂いを含む黒い瞳。 写真に映るその子供は確かに美しかった。小学生という育ちきっていない年齢にも関わらず、その瞳に宿る暗さがアンバランスな雰囲気を漂わせる。そして何より写真越しでも感じるこの子供の歪さ。 だけど.....あぁ、今目の前にいる子供は写真よりずっと美しく綺麗で歪に見えた。 「では注文がお決まり次第そちらのボタンでお知らせ下さい」 気になる。友人がその子供をどうするのか。どう接するのか。どういう関係なのか。私のうんざりとしていた気持ちがどんどん好奇心へと塗り替えられていくのがわかった。 「何食いたい?好きなもん頼めよ」 だけど去り際聞こえた声にゾッとする。 数年来の付き合いだがアイツがこんな気色悪い声を出せるなんて初めて知った。 もしかしてもしかすると.....いや、まさか。 私が素早く厨房に入るとアイツの家の人間に「若君はどうでしたか!?」と興奮気味に詰め寄られた。 そいつを皮切りに何人かが私に集まってきて興味深々に口を開く。 「若様がメールで送ってきたあの子供はなんなんですか!?」 「どえらい綺麗な子ですが、若様とはどんな関係で?」 「若様があんな顔をするなんてっ」 「しかも抱っこですよ?抱っこ!!若様が誰かを腕に抱くなんてっ....!」 「まっ、まさか若様のこ、こここ子供!?」 「なにぃぃ!?あっ、ああ相手は誰なんだ!?」 「早急に調べてお迎えしなくては....っ」 「結婚式はどこを押えますか?」 「いや、まずは家を用意しなくては」 本当にアイツの家の人間は面白いなぁ。どれだけアイツのことが大好きなのか....。高校生と小学生....アイツが幾つの時に作った子供なんだろうね? 「テメェら!!落ち着かんかい!!」 その時、大きな声が響く。一瞬客席まで声が届いたんじゃないかと冷や冷やするが特に反応がなかったため胸を撫で下ろす。 「若様の友人を困らすな!アホどもが」 そう言いながらガタイがよく厳つい顔をした男が騒いでいた人達の頭に拳骨を落としていく。 この人はアイツが小さい頃から世話が係を務めていた岩東(がんとう)さんだ。私は(がん)さんと呼んでいる。 「すまねぇ、こいつらは少し頭が弱くてな」 「いや、いいですよ岩さん。面白いので」 「それならいいんだが.....。それで、若様と一緒にいる子供は一体何者なんだ?まさか本当に若様の子供....っ!?」 貴方もかい? 「はぁ......考えてみてくださいよ。アイツに父性があるとお思いで?」 「「「「「「ないですね」」」」」」 「ないな」 皆さんよくわかっていらっしゃる。 アイツに父性などない。だから例え子供を孕ませたとしてもソレに愛情を向けることなんてないのだ。よって、あの子供がアイツの子供ではないことが分かる。 おわかりかな? 「じゃあ益々あの子供がなんなのかわからねぇな。調べたが一般家庭のただのβだ。まぁ異能持ちらしいが、だからといって若様の興味を引くようなところはなかったはずだが.....」 調べで一般家庭と出てるなら、なんでアイツの子供っていう考えが出てくるのか.....やっぱりこの人達は面白いなぁ。 「あっ、でもすっげぇ綺麗な子供ですね。僕、見惚れちゃいました」 「俺もだ」 「ぼ、僕も」 一人の言葉に皆がうんうんと頷く。岩さんもそこは頷いていた。 「子供であんな美貌を持つとは将来大変だな。というかしょっちゅう誘拐とかにあってんじゃねぇか?」 「確かに攫って手篭めにする輩がいてもおかしくない見た目をしてますね」 岩さんの言葉にそう返す。しかしそうは言ってもあの子供にはそういう犯罪の被害者になったという調べはない。まっさらだった。 「岩さん。あの子供の調査はもう済んでるんですよね?」 「ああ。もちろんだ。......驚くほど普通の人生を歩んでいるぞ、あの子供は。調べに嘘はない」 私の疑いを見透かしたように岩さんは答える。参ったな。流石は岩さんだ。鋭い。ま、長い付き合いだから仕方ないのかな? しかし益々好奇心が実っていく。あの子供について、友人の今後の行動について。 「ちょっかいはかけんでくれよ?あんたには若様のストッパー役になってもらわにゃならん。一緒にはっちゃけられたらこっちの胃に穴があくだろうが」 「ははは、何を言ってるんですか岩さん。私はちゃんとわかってますよ」 「そうだといいんだがな」 私がそう言うと岩さんはじろりと私に目を向けた後、また騒ぎ出した人達に拳骨を落としに行った。岩さんには敵わないなぁ。よく私のことをわかっていらっしゃる。 その時、注文のブザーがなった。未だに言い合う岩さん達を尻目に私は厨房を出て友人が座る席へ向かう。 「アイスクリーム下さい」 「かしこまりました。では失礼します」 アイツの視線にビクビクと気にしながら子供はアイスクリームを頼んだ。どう考えてもすぐに用意できる料理にすぐに食べれるもの....どれだけ帰りたいのかよくわかる。つまりこの子供は嫌々連れてこられたのだ。 それにアイツのあの視線。 やっぱり..... 厨房に戻り私はアイスクリームを用意して素早くあの席に届けた。 そして再び厨房に戻り「岩さんすいません。私は気になることができたんで抜けます」と伝える。 「おう。というか別に頼んでねぇしな。好きにしてくれて構わんぜ」 「ははっ、確かに。それじゃあお疲れ様です」 私は着替えてこの嘘だらけの通りを後にした。

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