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《side 兎道 湊都②》

(いい先輩だな) 入学初日からこんないい先輩に出会えたことに自分の幸先の良さを噛み締める。 「じゃ、最後に俺からこの学園で過ごすにあたっての注意事項を.....」 「注意事項?」 「ああ、この学園はさ.....弱肉強食なんだよね。だから容易に独りになると狩られるぜ?」 「は?」 先輩は人の良さそうな顔をしていたし、歩きながらこの学園のことを色々話してくれるしで、いい人だと思った。 思っていたのに....。 「遅かったじゃねぇか!」 「間近で見るとほんと可愛いなぁ」 「それね~。目がくりくりでちょー可愛い」 「はー疲れた。こいついつの間にか奥に行ってて焦ったわww」 「おつおつ~w」 周りをよく見ずに先輩と話していた俺は自分が入学式会場ではなく、いかにも悪さするのに適してますと言えるような場所に連れてこられていることに気づかなかった。 ねっとりとした視線を向けられ『ああ、なるほど』と納得する。この視線は幾度も感じたことがあるため、こいつらが俺に何をしようとしているのかすぐに分かった。 「先輩....俺を襲うつもりだったん?」 そう聞いたがもう答えは分かりきっている。そのニタニタと浮かべた気持ち悪い笑みが答えだろう。人の良さそうな顔をした先輩もどんな魔法を使ったのか今ではただの醜い男にしか見えなくなっていた。 「そうそう!弱そうで可愛らしい見た目の子と遊びたかったんだよね~」 「最初に目をつけたのは俺だぜ?」 「はぁ!?僕だし!!」 「なんだとゴラ!?」 「まぁまぁどーせ 輪姦(マワ)すんだし、喧嘩すんのやめよーか」 「チッ」 「ふん」 「あはは~怒られてやんの!」 どうやら俺をここまで連れてきた野郎がこの三人のリーダーっぽいな。 リーダーの優顔、おちゃらけた金髪、柄の悪そうな坊主頭、チビ(俺よりはデカい)眼鏡の四人。 クソ....四人をいっぺんに相手すんのはきちぃな。 いや、きついどころじゃない。無理だ。 (人を斬れねぇ俺がこの状況から逃げて入学式へ?.....無理ゲーじゃん) そう、俺は人が斬れない。 斬れないと言い切るのは間違いかもしれないけど、 前世の記憶のせいか俺はどうしても人を斬ることに躊躇いが出てしまう。肉を裂く感触に、血の匂い。 本当に無理だった。 カタラとだけ戦えばいいと思っていた俺はなんで人間と戦うのか分からなくて、父さんに食ってかかったことがある。 しかし父さんは「俺もカタラとだけ戦いたかったよ。あのな、湊都。特別な力っていうのは使うやつ次第で殺人の道具になるんだ。俺達は同じ力を持つものとしてそれを止める義務がある。わかるな?」と悲しそうに話した。 それを聞いた俺は理解せざるおえなかった。 そりゃそうだ。この世界の全ての人間が犯罪を犯さない良い人であるわけではないのだから。 父さんと話して異世界転生で浮かれていた俺はこの世界と向き合う覚悟を決めた。その後は父さんとの特訓でなんとか人を傷つけることへの耐性をつけることができたが.....まだ殺す覚悟は出来なかった。 (地獄の日々だったな....) あの特訓の日々を思い出すと胃がギュルギュルと鳴る。いや、別にお腹が減ってるわけじゃねぇから、気持ち悪さで鳴るんだよ。と、誰かに言い訳をしている俺はこの状況に現実逃避してるのだろう。 「最初誰がするんだよ?」 「やっぱ連れて来た俺でしょ」 坊主頭の言葉に優顔が下卑た笑みを浮かべた。 現実逃避とかしてる場合じゃないなとゴクリと唾を飲み、俺は腰に吊るしていた魂写棒を抜き四人に向ける。 「ねぇ、彼やるつもりみたいだよ~?」 「頭が悪いんでしょ。それか僕達を舐めてるか」 「前者に千円で」 「じゃあ俺は後者に五百円だ!」 「やっす~wwもっと冒険しろよw」 ゲラゲラと笑い合うコイツらは今俺を舐めている。一人だから、弱そうだから.....震えているから。だけどその侮りが俺の唯一の勝機! ここがどこか分からないが、どこかの校舎裏っぽい。なら誰か人がいるはずだ!だからコイツらの隙をついて校舎内に入るか、取り敢えず人がいそうな所へ走る.....。 俺は未だに笑っている四人に向かって魂写棒を構え始動させた。 「始動『 揺蕩う刃(シェイカー)』!!」 魂写棒は光り輝き俺の身長に合った片手剣へと姿を変える。漫画で見るような無骨な剣。 これで隙を作るぞ!と息巻くが、あの四人組を見て俺は息を飲んだ。 「おい、始動したぞ」 「始動したねぇ~.....」 「始動したね」 「あちゃ~折角連れてきたのになぁ」 全員の目が据わっていた。さっきまで笑っていたとは思えない程の変わりようだった。

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