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兎君こと湊都君の手を引きながら僕は思う。『この子ってやっぱりαじゃなくてΩだよね.....』と。 首輪してない時点でαかβの二択と思ってしまうのはこの世界で過ごしていればしょうがない事だ。だから僕はαなんじゃないかと兎君に言った。でも、その後の兎君の表情がまさにしてやったりという顔だったから直ぐに「あ、この子αじゃないわ」と感じた。 だからといって兎君がΩなのかといえば確信は持てなくて.....だってこの世界でΩが首輪をしないのはとても危険な行為だから、普通はそんな事しない。結果、僕は兎君がαじゃなくて本当はβなんだと思うようにしたんだけど、アレを見たらねぇ....。 壇上に上がって挨拶(?)をした風紀委員長の緋賀 永利。彼が話した瞬間、隣で飛び上がったように身体を跳ねさせた兎君。突然の行動に兎君をギョッと見たらなんと驚き、彼はまさに『雌』の顔をしていたのだ。 もうそれを見たら兎君がΩにしか見えなくなったね! 頬を上気させ、風紀委員長をポーっと見つめる兎君はまさに恋する乙女だ。いや、乙男か? 未だにどこかへ意識を飛ばしているのか、元気がない兎君に対しどう接するか悩む。彼はどうやら首輪を外すというとち狂った行為をするほどΩだと気づかれたくないらしい。僕としてはせっかく仲良くなれた為その気持ちを汲んでαとして接したいが、彼の演技はポンコツだというのがこれまでの事でわかっている。 うん.......無意識にΩとしての雌の部分を出しているからバレるやつにはバレると思う。 (できるだけフォローしてあげよう......不安だけど) 「燈弥」 「.....うん?どうしたんですか?」 危ない。未だに気を抜くと反応が遅れてしまう。 一条 燈弥.....僕は偽名でこの学園に入学している。 弥斗 この学園でその名は使えない。弥斗という名前を使ったら僕の学園生活が混沌としたものになるのはもうわかっているからだ。 因みに、燈弥っていうのは やと→とや→とーや→とうや というふうに付けた。我ながらセンスいいなと自画自賛.....。 と、そんなことは置いといて。僕は話しかけておいて中々続きを話さない兎君に促すように握った手に力を入れた。 「あ、あのよ。風紀委員長のことどう思う?」 「風紀委員長ですか?どうと言われても、とても強そうだなとしか言いようがないですね」 「そうか.....」 うーん。そんなあからさまにほっとされると虐めたくなっちゃうじゃないか。 というか、もう兎君はΩとして彼のこと好きなんだね.....。 そしてクラス分けなんだが......運良く兎君と同じクラスになった。 「やったな!!」 「うん、やりましたね。これから一年よろしくお願いします兎君」 「おう!!」 喜びあいながらA組クラスへと移動する。 しかし向かう途中、知らない生徒に話しかけられた。 「ねぇねぇ、そこの面白い眼鏡した君とちっちゃい君!そう君達!!良かったら一緒に教室へ行ってもいいかな?あっ、その~....クラス分けの掲示板前で君達がA組っていうのをたまたま聞いちゃったんだよね!僕さ~所謂ぼっち?ってやつで友達募集してるんだぁ。ね、ねっ一緒に行ってもいいでしょ!?おっと、自己紹介がまだだったね!僕の名前は宮野 芙幸(みやの ふゆき)!よろしくね湊都君、燈弥君!!そういえば知ってる?今年上がってきた古参組にヤバいのがいてさ、なんでも風紀が全然しっぽ掴めないやつらしいよ。あっ!それとA組の担任って今いないから副担が仮の担任になるって。僕はーー」 うわぁ、めちゃくちゃ喋る子だな......。これがマシンガントーク、初めて体験した。確かに口を挟む間がないなぁ.....。 僕はそう宮野君に感心していたが、兎君は違うようで肩をプルプルと震わせーー 「だぁーーーー!!うっせぇ!!!」 大きな声で宮野君にキレた。 「一緒に行く?そんなん全然OKじゃボケ!だけどそのまま喋り散らすな!!こちとら新入生で学園のことを全然知らねぇんだよ!専門用語出すなボケ!あと話しすぎじゃボケ!!」 言い終わった兎君はふんすと鼻息荒く宮野君をギッと睨んだ。しかし宮野君は兎君の言葉にキョトンとした顔をしてパァァと音がつくくらい破顔した。どうやらその大変可愛らしい睨みは効かなかったようだ。 「あ~ごめんね!僕ってばちょっと焦ちゃってた。新入生って言ってたけど君達は持ち上がり組じゃないんだね....どおりで見た事ないわけだ!分からないことは持ち上がり組である僕が教えるよ、なにか聞きたいことはない?」 宮野君はそう言って馴れ馴れしく僕の肩に腕を掛ける。身長は僕の方が少し高いくらいか.....。 「馴れ馴れしく触らないでください」 掛けられた手を振り払い特に感情もなく言う。全く....いきなりで失礼でしょうが。それに僕は君と友達になるつもりはないですよ。あのマシンガントークでスルーしそうだったけど、名乗ってないのに僕達の名前を知ってるのはなんででしょうね? クラス分けの掲示板の時から僕と兎君は名前を呼びあってないのに。 「あれ?馴れ馴れしいのダメだった?ごめーんね!」 この人メンタル強いな。 「なぁなぁ!さっき言ってた古参組ってなんだ?」 「それは僕も気になってました」 「じゃあ歩きながら話そっか!」 そして語られたのはその古参組という人達の異常性。その中でも異名を持つ人は要注意らしい。 その異名というのがよくわからなくて宮野君に聞いんだけど..... 「異名ね~。会長のように人格者とかいい意味でついた人も居るんだけど、中には 快楽殺人鬼(シリアルキラー)とか戦闘狂とか居るね」 「快楽殺人鬼!?」 「なんでそんな人を入学させてるんですかね?この学園おかしいですよ」 「そう言いたくなる気持ちわかる。でもシンプルに強いから赦されてるんだよね。あ、で異名っていうのはその人の通り名のこと。取り敢えず異名持ちには近づかない方がいいよ。クセが強いから」 あぁ、君みたいに?という言葉を飲み込む。 兎君は気づいているかな? 宮野君を見る周りの目が普通じゃないことを。 「うわ....宮野だ」 「目合わせんなよ」 「アイツ去年....」 耳を澄ませば聞こえてくる話。絶対に宮野君異名を持ちでしょこれ。 分厚い眼鏡のした目を向けると、周りは宮野君をチラリと見てはヒソヒソと話したり、目をサッと逸らしてたりしていた。 僕は宮野君に目をつけられたくないから、何も言わないけど兎君はどうするのかな? そんなことを考えていた時だった、 「ふーん、じゃあ芙幸って異名持ちか?」 兎君がぶち込んだ。 隣で歩く宮野君の口が歪み、目が興味に煌めくのを僕は間近で見た。 (兎君ご愁傷さま。君は厄介な人に興味を持たれたようだ) 「なんでそんなこと聞くの?」 「だって、周りのヤツらが芙幸のこと怖がってんだもん」 「!.....そーいうことね。残念だけど僕は異名持ちじゃないよ。去年ちょっとやらかしちゃって、それで周りがあんな反応なんだと思う」 「なんだそうなのか!てっきり異名持ちだと思っちまったぜ!」 「湊都君は凄いね~。例えそう疑っても本人には聞かないよ普通。アイツら急に暴れだしたりするしさ」 「なんですかその人間爆弾みたいな人達は」 「人間爆弾!まさにそれだよ!!あっははは!」 どこにウケる要素があるのか分からないけど、まぁいいや。

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