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「あれ?燈弥ひとりか?」 寮部屋に戻った僕は共同リビングでただいま独りで読書中。兎君は探検してくる!と言って宮野君を引き連れて旅立ったためここにはいない。 それをケーキ君に話すと彼は苦笑い気味に「やっぱりな。湊都はじっとできないタイプだ」と、僕の向かいのソファに腰かけた。 「燈弥は一緒に行かなかったんだな」 「あの二人と一緒となると絶対に疲れると思うので。せめてあと一人ストッパーがいれば話は別なんですけど」 「芙幸がトラブルメーカーなのは知ってるが、湊都もか?」 「さぁ?でも兎君のズカズカ他人に踏み込む所は火種になるんじゃないですか?この学園にいる人の大半がなにか抱えてそうですし」 「おま.....なんで湊都と友達になったんだ?どう考えても性格合わないだろ」 ''性格が合わない'' ケーキ君のその言葉に首を傾げる。 そんなこと今までで一度も思ったことがないため、一瞬ケーキ君が何を言っているのか理解できなかった。 「僕は一度もそんなこと思ったことはありませんよ。性格が合わないってどういう感情なんですか?」 「マジで聖人かよお前.....。性格が合わないっつうのは、一緒にいてイライラするとかか?いや、苦手意識を持ってるっつうことか?」 「なんで疑問系なんですか」 「うるせー」 苦手意識か.....それなら 「それを言うなら話が通じない人は性格が合わないです」 「それは誰でも性格が合わないだろ」 それもそうか。でも本当に話が通じない人は苦手だ。思い出すのは未だに忘れることが出来ない忌々しい記憶。血のようにドロリとした真っ赤な三白眼に僕に噛み付く大きな口。逃げることを許さないと骨が軋むほど握るその手は節ばっていて力強かった。 何を言っても通じない。 嘆きも、悲鳴も、怨嗟も、怒りも、恐怖も 全てあの人から与えられる快楽に流されていった。 あぁ、噛まれたうなじがーー 「おい、どうしたんだ?」 「っ、な....んでもないです」 「そうか?痒いのか知らねぇけどあんま掻くと赤くなっちまうぞ?......ムヒ塗るか?」 「.....お気遣いありがとうございます。大丈夫です」 無意識にうなじを触っていたらしい。 僕はいつまでシュウさんに囚われているんだろう?もう逃げ切ったはずなのにふと思い出す記憶が僕を蝕む。思い出したくないのに、思い浮かんでしまう。 ......このままじゃダメだ。一度気分転換でもしないと深みに嵌ってしまう。 「すみません。僕も外にーー」 「なぁゲームしようぜ!この前面白そうなゲーム見つけてよ、文貴は下っ手くそだったし....燈弥ってゲーム得意か?」 「.....」 「燈弥?」 「あはははっ、いえすみません。僕はゲーム得意ではないですけど人並みにはできますよ」 なんだか少し救われた。ケーキ君は僕を不思議そうに見ていたが、僕は何も言うつもりは無い。 視線を感じながらもソファから立ち上がり小さめなテレビの前に座り込む。 「なんのゲームですか?」 この学園に入学して2日目。 なんだか楽しく過ごせそうだと初めて思った。 ケーキ君には感謝だね。

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