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カチカチとコントローラーを動かしながらケーキ君は言った。
「新入生交流会のためにもこの校舎のこと調べておいた方がいいぞ」
「急になんですか?言っときますけど話しながらでも僕は操作ミスしませんよ」
「そんなんじゃねぇよ。人狼狩りはプレイヤーがいかに生き残るかが重要だ。当然戦闘向きじゃない奴らは隠れるだろうよ」
「あぁ、なるほど。それで校舎を見とけというのですね。隠れやすそうな場所、逃げやすそうな場所.....確かに予め見とくのが良さそうです」
「なんなら組むか?」
「馬鹿ですか?」
君も兎君や宮野君と同じようなこと言うんだね。
「おいおい俺は全てを理解した上で言ってんだ。俺は別にランクの昇級とか興味ねぇし」
コントローラーを動かしながらチラリとケーキ君の左胸を見ると肆と書かれたバッジがついていた。彼も瀧ちゃんと同じで肆か......。
「それに今回の人狼狩りはヤベぇ気がすんだよ」
ケーキ君は深刻そうにポツリと呟く。まぁこの学園での狩りという言葉はうすら寒いものを感じるのはわかる。
「大まかなルールを聞きましたが、プレイヤーがプレイヤーを狩ってはいけないというのはないですよね?」
「ああ。まぁその事に気づくやつは気づくだろうよ。そんで人狼でもないのにプレイヤーを狩るプレイヤーが出てくるっつうことは.....」
「カオスですね。人狼を探すどころじゃないですよ?」
「今回は難易度高ぇな.....」
うんうんと隣で唸るケーキ君をゲーム内でボコボコにする。「あーー!?」という叫びを耳に、それでも容赦なくコントローラーをカチカチカチカチ.....。
「燈弥強くね?」
「ケーキ君は弱くないですか?」
「......もう一回だ」
「はいはい」
「それと人狼狩り組もうぜ」
「まだ言ってるんですか?」
ため息を吐き、うんざりする。
「僕も別に昇級とか興味無いんで組まなくていいですよ」
「違ぇ。生き残るために組もうぜっつってんだよ。勝利のためじゃねぇ」
ふむ。それだと話が変わってくるね。考える余地はありそうだ。
「なら貴方の 魂写棒 の異能を教えてください」
「.....いいぜ。俺の能力はーーー」
その後、実際に始動して異能を見させてもらった。意外にも真正面から戦うより隠れながら戦った方が効果がある異能で驚くが、殺傷性は抜群だろう。ケーキ君の性格からは予想できない異能。
というか、本当に異能を教えてくれるなんて思わなかった。自分の手の内をまだ出会って数日の僕に見せるのは危険な行為だろうに.....。
これは、僕も誠意を見せなきゃね。
「いいですよ。当日組みましょうか」
「よっしゃ!」
「では最後に二つ聞きたいことがあります。なんで僕と組もうと思ったんですか?」
文ちゃんではなく、兎君でもなく、僕を選んだ理由。交友関係が広いであろうケーキ君がわざわざ僕を選ぶ理由が分からない。
するとカタリとコントローラーを置いたケーキ君は恥ずかしそうに頬を掻きながら....
「いや~....最初のシモの話でも気があったし、話しやすいからこれを機にもっと仲良くなりてぇなぁーっていう下心」
そう言われても嘘くさいとしか言えないなぁ.....。
なんたって彼はαだ。どうしても何かあるのではと疑ってしまう。.....僕が関わってきたαがだいたいクソみたいなやつばかりだったせいで、こんな疑りぶかい性格になってしまった。とりあえず保留としよう。
「へぇ.....では昇級に興味ない本当の理由は?」
「へぇで終わらすのかよ。.....昇級か、昇級ねぇ」
呟くように昇級という言葉を何度も口にするケーキ君は何を思ったのか僕の手を取り、指を搦めた。僕より全然男らしい手に内心動揺し手を振り払おうとするが、指が外れない。
「なぁ、ここでランクが高い奴ってのは.....それだけイカれたイベントに勝ってきたヤベェ奴って意味なんだぜ?」
妖しく歪められた茶色い瞳が僕を貫く。
「そんなランクを昇級させようとするなんざ馬鹿だろ」
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