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第1話

あ〜あぁ、今日も本当に退屈・・・ 授業受けるのが怠くて、屋上で授業サボるのはいつものことだけど、そろそろ出席日数がやばいかもしれない。 澄み渡る青い空を見ながら物思いに耽る。 折角の高校最終学年、本当だったら友達とかと一緒にどっか遊びに行ったり、受験のために勉強会をしたりするのが健全な学生なんだろう。だけど残念ながら僕には友達はいない。 別に寂しいと思ったことはない。だって、正直興味のない人と関わるのは面倒だし、基本的に喋るのがあんまり好きじゃないんだ、感情表現もどうやら乏しいみたいだ。 昔は友達作ろうと頑張ってたけど、話すのが得意ではないので話さないでいればお高く止まっていると言われ、かと言って積極的に話そうとするとすぐこちらに気があるかのように迫られる。 そう僕、栗栖陽太(くるすひなた)は美人周りに言われている。性別はもちろん男だが、会う人悉く皆僕を美人だという、しかも儚げな美人と。 この容姿で昔から色々と面倒ごとが絶えなかった。男女問わず告白してきたり、修羅場に巻き込まれるなんていうのは可愛いものだ。痴漢に遭ったり、襲われそうになるのは日常茶飯事。正直平凡な顔、平凡な家庭で、平凡に過ごしたかった。 今更そんなこと言っても無意味なんだけどね・・・ あぁ・・・家には帰りたくない・・・でも教室にも居たくない。授業を受けているだけで常にどこからか視線を感じるのが嫌だ。 今の時期こんな屋上でサボってる場合じゃないはずなんだけどね・・・みんな受験勉強で忙しいもんねぇ・・・ とりあえず昼休みで切り上げて少し公園で時間を潰そう。 ガラガラガラァ... 教室の扉を開けるとみんな昼休みでお喋りしてたはずなのに一気に静まりかえって視線が集まる。勝手に話してればいいのに、なんで毎回みんな黙るんだろう・・・だんだんこっちが申し訳なくなってくる。 「お〜ひなた〜どこ行ってたの〜?また屋上でサボってたのか〜?」 1人だけいつも声をかけてくるやつが居る。隣の席の何て名前だったっけ・・・吉田?隅田?鈴田?よく思い出せない。 俺がどんな塩対応でも話しかけてくるのは有難いけど、周りの視線が鬱陶しくていつもろくに返事ができない。 「ん」 「それだけかよ〜相変わらずドライというかクールだなぁ〜なに?お前もう帰んの?」 「ん」 「じゃぁ、また月曜日な〜!」 特に中身の入っていない鞄を持って教室を出て、家の近くの公園に向かう。 特に何か特別なものがあるような公園じゃなくて、ホント至って普通な住宅街の公園だ。 一応奥まったところに居ると危ないから、何処からでもよく見えるベンチに鞄を置いて座る。 参考書も読む気もないし、ただぼーっと座ってることしかできない。 あぁ・・・あんまり長時間いるとまた叱られるけど、少し居眠りするぐらいいいか・・・ 気持ちいい天気でだんだんと瞼が重たくなってくる。貴重品とか特にないし、大丈夫・・・ ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 刃サイド 流石に毎日のこんな過密スケジュールはきつい・・・会社の経営は勿論、組の方もやることが溜まっている。 はぁ・・・つい先ほども取引先との会議が終わったばかりだ、少しだけ休憩時間があるから外の空気が吸いたい。 そう思い立った俺はドライバーの早川に止まってもらい、すぐ目の前の公園に足を向けた。 まぁ、なんというか寂れた公園だ。子供一人っ子居ない。俺は一服しようとタバコに手をかけた瞬間、ふとベンチが目に入った。 「ん?」 先客がいた。 服装からして高校生か?こんな公園のベンチで居眠りなんて無防備すぎるだろ。 俺は静かに気配を消して近づいた。 うわぁ、すげえ綺麗な子だ。 ちょっと猫っ毛の黒髪に白く透き通るような白い肌、口元にある小さな黒子も、全てが整っていてものすごい美人だ。身長は?そこそこありそうだな。 こんな俺好みの美人見たのは人生で初めてだ。ドクドク心臓の音がうるさい。 この子の瞳はどんな色だろう・・・思わず近くにしゃがんでまじまじと観察してしまった。 それにしても無防備すぎるだろ・・・こんなに近づいても気づかないなんて。 しかもなんだか寝苦しそう。眉間にかすかに皺が寄っている。 「この子・・・俺のにできたらいいのになぁ・・・」 まぁ、そんなこと考えても無駄か。 誰かも分からないしなぁ・・・鞄の中に学生証あるかなぁ。 申し訳ないと思いつつ俺は鞄の中を漁った。 「お、あったあった。栗栖陽太・・・ひなたか・・・名前も可愛くていいなぁ・・・」 名前知れただけでもいいか、探そうと思えばいつでも見つかるだろう。 「若、もうそろそろお時間です」 チッ、そろそろ次の仕事の時間だ。有能な秘書様が隣で睨みを効かせている。 俺は学生証を元の位置に戻して、その子に触ろうとしたけど、明らかに不審者みたいなことはできないなと思い、後ろ髪を引かれながら車へ戻っていった。

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