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第18話

朝起きるとやっぱりベットの上には僕一人。とりあえずリビングに向かうと、スミからのおはようございますと朝の挨拶を受けたあとに謝罪された。 「昨日はすみませんでした」 「え?なんで?」 「お酒を飲んでいらっしゃることを分かっていながらお風呂場に行くのを止めなかったので」 「いや、そこは僕の自業自得だよ・・・」 「いいえ。もう次は間違えません」 据わった目で見られて、なんだか申し訳なさと罪悪感でいっぱいになる。 「うん。僕も気をつけるよ」 「そう致しましょう。朝は何をお召し上がりになりますか?」 「あんま食欲ないんだよね・・・なんか温かい飲み物が飲みたいかな」 「ではホットミルクでもご用意いたしますね、少々お待ちください」 高級なソファーに思いっきり飛び込む。はぁ・・・彼とは結局あんまり話できてないな。 「ホットミルクです」 ボーッと窓の外を見ていたらスッと隣にマグカップが差し出された。 「ありがとう」 ふーっと冷ましながらちびちびとホットミルクを飲む。ん?そういえば、なんかスミの目の下隈が凄い気が・・・? 「寝れてる?」 「え?私ですか?」 「うん。隈がすごいよ」 「あぁ、失礼致しました。ちょっと昨日忙しかったもので、気にしないでください」 まぁ、僕が心配したところでスミが休んでくれるとも思えないしなぁ。 「夜のうちに出ていっちゃった?」 「・・・そうですね、今色々とゴタついているので、でも今日は早く帰ってくると仰っておりました。帰宅時間が分かり次第お伝えしますね」 「うん。ありがとう。あと暇だからなんか勉強するもの持ってきてくれる?」 「参考書とかでしょうか?」 「んー・・・なんでもいいよ。外国語とかでもいいし」 「かしこまりました。すぐにお持ちしますね」 スミはすぐに大学受験の参考書、中国語と英語の教科書、料理本、盆栽の専門誌、あとなんだか夜の指南書のような物まで用意してくれた。 今はとりあえず夜の指南書をしっかり読み込もう。 パラパラとページを捲っていくと、かなり詳しくテクニックなども書かれていて、思わず赤面しそうになる程の内容だった。 この前挑戦したお尻の準備や、開発方法、キスの時のテクニックや、前戯の仕方、ものすごい情報量だった。 果たして、僕に務まるのか甚だ疑問だけど、でも一応頑張ってみようとは思っている。 夜の指南書は全部読み込んで基本的な知識は頭に入ったところで、別の本を手に取った。 料理本か・・・料理作ってみようかな? 僕は早速料理本を読んでいくと色々料理の基本が書いてあって面白い。 初めて作るのは何にしようと思ってスミに声をかけた。 「ねぇ、好きな料理ってなんだと思う?」 「・・・?若様ですか?」 「うん。なんか今日作ってみようかなって」 「それはさぞお喜びになられると思います。ですが好みは・・・強いて言うなら和食系でしょうか」 「和食か・・・」 パラパラとページを捲っていくと、基本の豆腐とわかめのお味噌汁と卵焼きと豚の生姜焼き定食の様なレシピが書いてあった。これにしてみよう。 「・・・これ作ってみたい。材料ってある?」 「こちらですね、畏まりました。すぐ材料確認します」 しばらくすると台所に全ての材料が揃った。 「陽太様はお料理のご経験が?」 「ん?・・・ないよ?」 「一度も?」 「うん・・・初めて。でも本に作り方丁寧に書いてあるから、ゆっくり作ろうかなって。時間いっぱいあるし。失敗したら僕が食べるから安心して」 「左様でございますか・・・スミは隣で見守らせていただきます」 「あぁ、うん。わかんないところあったら教えて」 「かしこまりました」 まず、色々作りたいけど、お米がないと話にならないね。炊飯器のお釜をとって、台に置く。 うん。お米どこだろう。 「スミ、お米ってどこ?」 「あぁ、失礼いたしました。お米は冷蔵庫に入っております。ボタンを押すと一合分出てきますよ」 「おぉ、ハイテク」 「何合あれば足りるかな?」 「そうですね、お二人分でしたらとりあえず3合で宜しいかと」 「わかった」 ボタンを三プッシュするとお釜の中に3合分のお米が入った。本によると優しく揉み洗いをすると書いてあった。ジャーっとお水を入れて優しく揉み込んでお水を換える。 炊飯器のお釜に書いてある目盛までお水を入れて、少し待ってから炊飯器のボタンを押す。 よし、ここまでは出来た。 おかずはうーん、どれから手をつけよう。 卵焼きからいこう。 卵を3個、ボウルに割って入れないといけない。 「卵ってどうやって綺麗に割るの?」 「ではお手本見せますね」 スミがコンコンと卵を流しの角で当てて、ヒビに両手の親指を当ててパカッと割って、卵がボウルに入った。 「おぉ、やってみる」 コンコンコン あれ?思ったよりヒビが入らない。 コンコンコン、今度は強めに当てると一筋のヒビが入った。ここに親指を置いてパカッと割る! 「綺麗に出来ましたね、流石です」 「ふふっ、ありがとう」 全部卵割ってレシピ通りの配合を入れる。これは砂糖が入ってるから甘めの卵焼きだ。 いざ焼こうとするとスミが四角いフライパンを出してくれた。 「これは?」 「卵焼き作るときに使うフライパンですよ」 「そうなんだ、だからあんな綺麗に四角くなるんだね」 油を引いて少しづつ入れて卵をクルクルと巻く、と書いてあるけどうまくできるかなぁ。 卵に火が通り切る前にクルクルっとするとふわふわした卵焼きになると書いてあった。中々書いてある通りにするのは難しい。 優しく菜箸で巻こうとするけどあまり綺麗ではない。 同じ作業を何回か繰り返すと卵焼きの形になってきた。フライパンから外してまな板の上で6つに切ってお皿に並べた。 思ったよりいい感じだ。 うん、お味噌汁を作ろう。 お鍋におかわりするかもしれないから少し多めのお水を入れて、乾燥昆布を入れる。弱火で沸騰直前までなったら昆布を取り出し、わかめと豆腐を入れて、お味噌を溶かす。 「味噌ってどれぐらい入れたらいいかな?」 「そうですね、私はいつも目分量でやってしまってますね。あ、はい、それぐらいで一旦様子見ましょう」 お玉をお湯の中に入れて菜箸で少しづつ溶かしていく。お味噌汁作るのもこんなに工程あるんだなぁなんてしみじみ思ってしまった。 うん、少し味見したらいい感じだとおもう。 あとは生姜焼きだ。 生姜をすりおろして砂糖、醤油、酒、味醂をレシピの分量通り入れて混ぜてタレを作っておく。その後豚肉をフライパンで炒めて火が通ったらタレを入れて少し煮詰めて絡めれば完成。 意外とできた。 お皿に生姜焼きだけっていうのも味気ないな・・ 「スミ・・・なんかお皿が味気ない」 「色・・・彩りですかね・・・よかったらここにリーフレタスとミニトマトでも飾ってみましょう」 スミに言われた通りに飾ると一気に定食屋さんの生姜焼きになった。 「できた。初めてまともに料理した。でも結構時間掛かっちゃったね」 「そろそろ若様も帰ってくるので丁度よいかと」 噂をすればなんとやら玄関が開く音がして、急いでお迎えに行った。 「・・・おかえりなさい」 「っ?!・・・・・・ああぁぁぁもう、可愛すぎる!!ただいま、ひな可愛い、なんかいい匂いする」 ぐわっと僕を抱き上げ、首元にスリスリと頭を擦りつけながらスンスンと匂いを嗅がれた。 「・・・初めてご飯作ってみたの・・・その匂いかな?美味しい保証は出来ないけど食べてくれる?」 「っは?!ひなの初めての手作り?」 「うん」 至近距離にあった顔が破顔してニヤァとした顔になった。 「是非とも頂きたいです」 抱えられたままダイニングに向かうと、 「え?!これ、生姜焼き定食?」 「うん、あと卵焼きも作ってみた・・・甘いのだけど食べれる?」 「うん、ひなの作ったものはなんでも食べれるよ。早く食べたい、ちょっと待っててね、手を洗ってくる」 僕を下ろして急いで手を洗いに行っている間に、テーブルの上をセットして、これでよし。 初めてにしては失敗しなかった。僕意外と料理できちゃうかも。 「ごめん、お待たせ。全部用意してくれたんだね、ありがとう。んーでもこれはこっちにセットしてほしいかな」 向かい合わせで用意したものの、隣り合わせに直される。 「そして、ひなはここ」 僕を抱き上げて片方の膝に乗せる。 「これだと食べにくくない?」 「んー、俺が食べさせたいから、ダメ?」 「・・・ううん、いいよ・・・」 「ふふっ、じゃぁ、一緒に食べようか、これ全部ひなが作ったの?」 「うん、本見ながら、スミにわかんない所教えてもらいながらやった」 「初めてでこれは凄いな。早く食べようか。じゃぁ、ひなの愛のこもったご飯美味しく頂きます」 「ど、どうぞ・・・いただきます」 「はい、あーん」 先に豚肉を一口分箸で持って僕に食べさせようとしてくる。 「・・・・・・えっと・・・先に食べて欲しいなって・・・」 「っ!?ごめん、そうだよな。いやぁ・・・物凄く食べたいけどなんか食べるの勿体無いな・・・」 「また、いつでも作るから」 「ありがとう、じゃぁ、最初の一口貰うよ」 僕の作った生姜焼きを彼はパクッと口にした。 モグモグ・・・モグモグ 彼は黙ったままモグモグを食べている。やっぱ初心者が作ったものなんて口に合わないかな?美味しくなかったかも? 「はーーーーーーーーー・・・ひな天才すぎ。こんな美味しい生姜焼き初めて食べた、マジで美味しい」 僕の顔を真っ直ぐ見ながら美味しいなんて言ってくるので、小恥ずかしくなって視線を逸らす。 「よかった・・・初めて料理したから、自信なかった・・・」 「いやいや、ほんとひな凄いよ。俺が初めて料理したものなんて塩握りと目玉焼きだ。おにぎりは歪だわ、目玉焼きに殻がいっぱい入って焦げるわ、散々だったんだよ。それと比べて卵焼きまでこんな綺麗に作れるなんて天才すぎる。才能しかないよほんと」 はい、アーンと言われながら彼は交互に僕と自分で食べさせる。めんどくさくないのかな? でも初めて作った料理をこんなに喜んでもらえるとは思わなくて、内心凄く嬉しい。 「ふふっ、なに考えてるの?なんか可愛い顔してる」 「・・・可愛くないよ。喜んでもらえてよかったって・・・思って」 「これだけで今日の疲れ吹っ飛んだよ、こんな美味しいご飯初めてだから、なんかもう感動だよ。また今度暇な時作って、食べにすぐ帰ってくるから」 「・・・うん、わかった」 ゆっくり食べ終わって、お皿を洗おうとしたら、後ろからぐいっとお腹に手を回されて耳元で、 「ご馳走様でした。ご飯本当に美味しかった。作ってくれてありがとう。今度はひなを味わいたいな・・・いい?」 ぼ、僕を味わいたいとか・・・なんでそういう恥ずかしい言い方するかな・・・ 「う・・・うん・・・」 「じゃぁ、洗い物は食洗機さんにお願いしようか」 「食洗機あるの?」 「一応ね、あんま使わないけど」 「・・・あるなら言ってくれればよかったのに・・・」 「だって一生懸命なひなが可愛くて、何事も経験だよ。また今度は一緒にお皿洗おう、じゃんけんで勝った方がお皿の拭き上げね」 「うん」 「じゃぁ、俺少しイチャイチャしたい。ソファー行こう」

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