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それぞれの聖夜 #14
一度抜いて一星がコートを脱ぎ捨てると、今度は後ろから襲いかかってきた。
雪雄の腰を両腕で抱き込み、獣の腰使いで中を無遠慮に突き込んでくる。休みなくパンパンと打ちつけられる尻は間違いなく赤くなっているだろう。本能に支配されていながらも、先ほど見つけた雪雄のいいところは覚えているようで的確にそこを突いてくる。
「あっ、あああ、ああ、あ、はげ、し……」
「ユキ、ユキ……!」
荒波に揉まれるような快感に喘ぎが止められない。まるで犯されているような感覚になる荒々しいセックスは初めてだった。いつも年上に優しくリードして貰うような行為に慣らされていたので、こちらも余裕がなくなってしまう。
自然と揺らめく雪雄の腰を見てとった一星は、目の前の首筋をぞろりと舐め上げた。敏感になった皮膚が予想外の刺激に快感を吐き出す。
「ふううううっ!」
激しく肌を打つ音に、ぐちゅぐちゅと下品な水音、二人の男の荒い息遣い。
星の煌めく夜空が覗き込み、黄金色の光が網目状に照らす、幻想的な場所の中。下半身だけを露出して繋がった二人は、本能に塗れた身体を絡み合わせる。
「一星、いっせい、もうイく、イきそうっ」
「お、俺も、出そう、だ……!」
内から込み上げてくる兆しを伝えると、一星もより強く腰を打ちつけた。
耳元に吹き込まれる心地好い一星の低い声、押し寄せる快感の波に身を捩らせる。
「ユキ!」
「んああぁあッ!」
逃すまいと深く抱き込まれると同時に、熱い飛沫が弾けた。
内側でびくびくと痙攣する一星の存在を感じながら、電流が突き抜けるような快感に貫かれる。目の前が真っ白になり、自らも一気に果てた。
中イキと射精の快感に指先ひとつ動かせず、甘い痙攣に身を委ねる。
抱え込まれていた腰が解放されると上半身が崩れ、尻だけ突き出すような体勢になってしまう。
柔らかい尻肉を最後まで味わい尽くすように腰を回され、くうと子犬の鳴き声のような音が鼻を抜けた。
童貞め。中に出しやがったな。
雪雄の文句は言葉にならなかったが、一星は心得たと言わんばかりに口角を上げる。
「掻き出さないと、だよな」
セックスを覚えた脱童貞はしっかり掻き出した。第二ラウンド後に。
「クリスマスになるとよくこのツリーの下に来ていただろう。それで何度もユキを見かけることあって、ずっと気になっていた……言っただろう、子供の頃から好きな奴がいると。あれはユキのことだ」
事後に寝そべりながら教えてくれた理由は分かったが、釦の外れた前からチラ見えする胸板がセクシーすぎてあまり頭に入ってこない。
くそう、脱童貞した男前は色気が十倍になるのか。
「子供の頃からねえ……」
言われてみれば確かに言っていた。ずっと片思いの相手がいると。しかし何がどうしてそういうことになっているのやら。一目惚れとかいうやつだろうか。
目を白黒させる雪雄に、片腕で頭を支えていた一星は「あー腕が疲れる」と零して、その身を雪雄に預けた。いや下敷きにしたとも言う。
「あの、重いんですけど」
「まず俺の子供時代の話になるんだが」
「聞いてるう!?」
そんな訴えを軽く無視した一星は、雪雄の予想を大きく外す過去を語り聞かせる。
冬野一星の始まりは、髪を引きちぎられる激痛からだった。
彼の両親は酒を切らすと日頃のストレスを子供にぶつける性質だったらしい。親に髪を掴んで振り回される一星を庇う姉もまた、その頬は腫れていた。
酒が入ると気分をよくするが、それも一時だけで酒気が抜ければまた逆戻り。生活保護の給付金も酒とパチンコに消えた。中学生の姉がそのことについて聞いても母は「使っちゃった。もうありませぇーん」とけらけら笑うだけだ。父ならば黙って殴るだけに終わる。
姉が中学三年になる頃には我が家の生計は姉の売春で成り立っていた。
見てくれだけは美形ぞろいの一家だったからだろうか。外面だけは一人前で、周囲の住民はこの一軒家の中で起きた問題を知ることはなかった。
一星もまた小学生に上がると、その顔の良さで客を取らせようと両親が算段を始める。そういう時、姉は方便を並べて一星を外に逃がしてくれた。酒が入れば機嫌が良くなるので、それまでは外をうろついていなければならない。
とにかく人通りのある方にと歩みを続け、最終的に辿りつくのは毎回、近くのデパートだった。仮に親に見つかったとしても外面の良さを発揮し、人前では殴ってはこない。
一星は中庭を好み、よく備え付けのベンチに腰を下ろしていた。
危険回避で訪れたデパート。しかし一星は、ここが好きだった。多くの客が笑い、時には真剣にショッピングする姿は縁のない一星に眩しく映る。まるで現実感がなくて、人の夢を覗き見しているような感覚だった。
特に気に入っていたのは人混みが多くなるクリスマスシーズン。豪華な飾りつけと光に溢れたツリーと、それを幸せそうに眺める家族連れの客は一星の憧れだった。クリスマス当日になると、ある客がよく目につくようになった。
「お父さ~ん。ツリーだよ、ツリー!」
「こら、ユキ。葉っぱを引っ張るのはやめなさい。家のツリーじゃないんだぞ」
「へへへ」
叱られても悪びれる様子もないユキと呼ばれた子供は、自分と同い年くらいに見えた。
彼の着ているファーフード付きコートが、やんちゃそうな印象を一星に与える。自分の着ているコートは外面を良くするために中古で買い与えられたもので、使用感はありながらもどこぞのお坊ちゃんが着ているかのようなデザインをしている。
けれど現実は真逆で、対照的なユキという子供が痛いほど羨ましかった。
「こーの、悪いやつめ」
帽子の上からガシガシと頭をかき混ぜられてもユキは楽しげに喚くだけだ。
「やれやれ、子供の頭をそんなに強くかき回すなんて。父さんはボーリョク的だな」
「あっ、言ったなー? あーあ、今日は帰ったらユキのために焼いたクッキーを食わせてやろうと思ったのに。そういう態度を取るんじゃあ、お預けだな」
「えっ、ショウガ抜きのクッキー!? やだーっ! ごめんなさいごめんなさいごめんなさーい!」
「はは。お前、現金な奴だなー」
ここまで来ると憎たらしかった。
暴力なんて毛ほども感じていない顔で“暴力的”などと冗談を言うことに、たまらなく腹が立つ。何も知らない癖に。親からの暴力がどれだけ痛いか、苦しいか、そして虚しいかを。
けれど、ツリーの光を背にした父と子の笑う姿は余りに美しかった。
寒空の下の光景が一星の胸に深く刻まれていく。自分でも知らぬ間に、涙を流していた。
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