「ま、まさか。俺がストーカーされるなんて……誰得だよ」 「だからその日下部だよ。君はこの間マンションを知られただろう」 「そ、それはそうだけど……え？ほんと？」 そうだ。あの日は俺のマンションまで送ってもらってしまった。しかもそこへ課長が現れて彼を追い返した形になって以来すっかり存在を忘れていた。 まさかそれを恨みに思って俺を付け狙ってるとか？そしてその最中に俺と課長が同じ会社であることを知ったと……？ 「めんどくさ……」 「ちょっとどういうこと？」 「えーっと……その日下部さんと飲んだ時俺酔っ払って最後タクシーで送ってもらったんだよ。それで自宅はバレてて……」 「その時俺が部屋に無理やり上がり込もうとしてた日下部を追い返したんだ」 「あらまぁ。ふーん、それで奏太のストーカーになって会社まで追っかけて写真を撮ったわけね」 気持ち悪いなぁ。普通そこまでする？ 「写真撮られた以外に奏太は気づいたこと無いのか？身の回りの異変とか」 「え？特に無いっすね……」 課長が俺の部屋に来て、その後すぐに俺たちは気まずい関係になっていた。それ以来ずっとほぼ1人でダラダラしてる生活だったから（たまに北山とは飲んでたけど）ストーカーといっても特に見るべきものは無かったんじゃ？？ 「よし、今夜はうちに泊まって行くとして明日奏太の部屋に俺もついて行くからおかしな点がないか調べてみよう」 「え！？そこまでします？」 「だって盗聴でもされてたら怖いじゃないか」 「う、そう言われれば確かに……」 「一応、主催者側としては知らぬ存ぜぬで通しておいたわ。私も新木の名前は出さずに富田律子でサイトに載せてるから奏太の身内だとはバレてないみたい」 姉（兄）は彼氏の富田姓を勝手に名乗っているのだ。 主催者が身内だとバレたら終わりだな。うーん、それにしても日下部さん厄介だなぁ。 「そういえば連絡先の交換はしなかったのか？」 「それはしてないで……あ、いや……」 そうだ。したじゃないか。 「したんだな？」 「あ、はい。あんまりしつこいから普段使わない捨てアドを教えたんですけど、全く見ないメールアプリだから」 「ちょっとあんたそれ確認してみなさいよ！」 俺は慌ててスマホを操作する。 以前懸賞に応募するのに取得したアドレスで全く使わないためメールのチェックなんてしたことがなかった。 アプリを開くと、受信メールの通知が234件。ここ最近は登録してないあるアドレスからのみ連続で届いている。 最新のを開くと…… “さっきはごめん、言い過ぎました。直接謝りたいから会って欲しい。ねえ、本当にもう会えないの？” 横から姉が覗いてくる。 「さっきはごめん？何かしら。その前も開いてよ」 「あ、うん」 “いい加減返事しろよ。ふざけるなよ。騙して高い飯奢らせて自分の男に追い払わせるのがやり口なのはわかってるんだ。パーティーの会社には報告したからな。出入り禁止になるからもうこの手は使えないよ” “返事ください。つらい。” “奏太くん元気？俺は奏太くんが返事くれないから夜も寝れないよ。遠くから見るだけじゃ寂しい。返事ください。” “返事しろ返事しろ返事しろ返事しろ返事しろ返事しろ返事しろ返事しろ返事しろ” うわ……なんだよ……！？ “奏太くんおはよう。今日もいい天気だね。週末は何してる？返事くれたら嬉しいな。どこか遊びに行こうよ” “奏太くんとまた会えたら最高だなって思って返事を待ってる自分がいます。ねえ、会えるよね？” 「あんた、これ……」 「やべーじゃんこいつ……」 「完全イッちゃってるわね……この日下部って人はあんたと宮藤くんを出入り禁止にするように求めて来てたの。それで言う通りに出禁にするって言ったら満足したみたいでそれ以降電話は来てないわ」 「そっか……」 つーかこのメールどうしよ～～怖すぎる！見たくなかった～！ 姉は食うだけ食ってこの話をしたら満足とばかりに迎えを呼ぶ電話を掛けた。 「あ、まぁくん？お話し終わったよ～。うん、すぐ来られる？うん、はーい、わかったぁ♡じゃーね」 媚びまくりの声に課長が顔を顰めてる。 「新木……声のトーン変わり過ぎ」 「はあ？うっさいわね、余計なお世話よ！あなただってこれまでのクールな宮藤くんはどこへ行ったのよ？奏太のこと随分可愛がってくれてるじゃなーい」 「黙れよ」 ……？ 「今日はクレームの件もあったけど、可愛い弟への愛が本物か直接話聞いて確かめてやろうと思ってたのよ。そしたらたまたま奏太が現れて宮藤くんのデレ顔見れたから安心したわ。お邪魔虫は消えるわね。ホホホ！ご馳走さま♡」 「姉ちゃん……」 「あんた、日下部さんには気を付けなよ！宮藤くん、弟をよろしくぅ」 姉は長い髪の毛をなびかせて帰っていった。 なんだかんだ俺のこと心配してくれてんのかな？ 「昔から変わった奴だったけど相変わらずだな」 「はい。お恥ずかしいです」 「で？奏太はやっとうちに来る気になったんだね」 あ！そうだった、姉のせいで忘れるところだったけど俺は課長に謝りに来たんだった。