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第32話 【最終話】毒を以て毒を制す(2)

そして俺は課長の指示で例の捨てアドに届いた日下部からのメールに初めて返信をした。 すると即返事が来て、週末に会う約束を取り付けることができた。 当日、俺は日下部との待ち合わせ場所へ北山と一緒に訪れた。 課長が一緒だと日下部の神経を逆なでしそうなので、課長は連絡するまで近くのコーヒーチェーン店で待機してもらっている。 10分前に着いたけど既に日下部はそこに立っていた。俺はちょっと緊張しつつ声を掛ける。 「お待たせしました」 「ああ、奏太くん!全然待ってないよ。会う気になってくれて嬉しいよ……!相変わらず可愛……え?君は……」 日下部は最初デレた顔をしてこちら歩いてきたが、俺の後ろにいる北山に気がついて表情を曇らせた。 北山は整った顔に営業スマイルを浮かべて日下部に挨拶する。 「こんばんは~はじめまして」 「奏太くん……これ、どういうこと?」 「日下部さんこそ、あんな手紙や写真送ってきてどうしたんですか。困ります俺」 「やだなぁ奏太くん。君がいかに愚かなことをしているか教えてあげようと思ったんだよ」 どうやら隠し撮りしたり付け回したことを悪いとは全く思っていないようだ。 「あのー、あれ普通にストーカー行為ですよね?わかってます?」 「君こそ出会いのパーティーに彼氏と参加して他の参加者を騙す行為は褒められないよね?悪いけど、主催者側には報告させてもらったから、出禁になってるよ。残念だったね」 「それ誤解です。俺と彼が会社同じなのは事実ですけど、あの日のパーティーでは偶然ばったり会っただけですから」 「へぇ、しらばっくれるつもりなの?しかもこんな助っ人まで呼んで俺を黙らせようっていうつもり?」 日下部は顎をしゃくって北山を指した。 「あ、もしかしてこのイケメンくんは2人目の彼氏?すごいねぇ、奏太くん何人彼氏がいるんだ?俺も是非その末席に加えてもらいたいもんだよ」 あほらし、何人も彼氏がいてたまるかよ。つーか加わりたいんかい! 「彼氏じゃありません。ただの後輩ですよ。今日はあなたと2人きりで会いたくなくてついて来てもらったんです」 「ふーん、危険人物扱いされてるのかな。心外だなぁ」 それまで黙っていた北山が笑顔で口を挟んだ。 「いや~、聞かせて貰いましたけどなかなかですね!」 この険悪なムードにそぐわない嬉しそうな口調に俺と日下部は眉を顰めて北山を見た。 「モブ顔なふっつーのサラリーマンなのに嫉妬深いストーカー男とか、かなりいい味出してますよ日下部さん!」 「はぁ……?」 日下部はポカンと口を開けた。 「いやぁ、その顔と性格でよく新木さん落とせると思いましたよね。俺嫌いじゃないですよそういう図々しいところ。ねぇ、俺のことどう思います?」 日下部は混乱した様子で俺に尋ねる。 「は?な、なにを言ってるんだ彼は」 「いや、俺に聞かないで下さい。俺もよくわかんないんで」 北山は俺を押し退けて日下部の目の前に迫る。 「ねぇ、日下部さん。俺どうですか?好みじゃない?」 「な、好みも何も……会ったばかりじゃ……」 「やだなぁ、会ったばかりの新木先輩にうざ絡みしてったのあなたじゃないですか!いいですよ。じゃあこれから2人でお互いのこと知っていきましょう?」 北山はそう言いながら日下部の腕に腕を絡ませた。そのままズルズルと引っぱってどこかへ行こうとする。 「ちょ、ちょっと君!何するんだ!?」 「飲みに行きましょうよ。美味しい店知ってるって先輩から聞きましたよ。でも先輩にはおっかない彼氏がいるから諦めた方がいいですよ。だから今度は俺のこと可愛がってくださいよ。ね?俺の顔嫌い?」 「いや……どう見てもイケメンだけど……」 「ですよね?俺もそう思います。あはは!じゃあ、新木さんまた来週~!」 「あ……ああ。また……」 笑顔でブンブン手を振る北山に俺は小さく手を振り返した。 「なんなんだあいつ……」 課長の言うアクが強いとはこういうことなのか。 「毒を以て毒を制す……か」 俺は2人の背中が見えなくなったので課長に電話した。 ◇◇◇ その後課長と合流し、外で軽く飯を食ってから課長の家にお邪魔した。 相変わらずきれいに片付いたお洒落な室内で、俺と課長はルームウェアに着替えてくつろいでいた。 課長が用意してくれた酒で俺達はグラスを合わせる。 「作戦成功に乾杯」 「乾杯。いやぁ……驚きました。北山あいつなんなんですか?」 「なんかすごいだろ。彼がバイなのはだいぶ前から知ってたんだけど、バーで会ったときもなんというか……強烈というか……」 俺を誘ってきた時も強引ではあったけど、あれでもかなり控えめだったんだな。 「やばいっすねあいつ。というか日下部さん大丈夫かな?」 「わからん。まぁストーカーくんにはいいお灸になるんじゃないのか」 「ですかね……」 北山はイケメンには違いないから、迫られて悪い気はしないんじゃないかな。日下部さんのタイプかは知らないが。 「あ、そうだ。奏太、明日は何が食べたい?」 「えー、課長が作ってくれるものならなんでもいいんですけど……」 「可愛いこと言ってくれるね。明日何の日かわかってる?」 「はい?」 俺はちょっと考えたけどわからなかった。誕生日でもないし……あ、課長の誕生日とか? 「俺達が付き合うようになって100日目の記念だよ」 「き、記念!?」 うわ、課長こういうの気にするタイプなの?! 100日とか普通数えねえだろ…… 「あ、引いてる?俺も普段こんなの気にするタイプじゃないから安心して。奏太と会えなくなってしばらくしたときちょっと数えちゃっただけだから」 乙女なの?! ほんとこの上司、たまに見た目と行動のギャップが…… 「だけど気づいたらスルーできなくてさ。だから奏太が好きな美味い肉買いに行こう」 「え~いいんですか!」 「ああ。世田谷に和牛専門店があってフルオーダーカットしてくれるらしいから俺も一度行ってみたいと思っててね」 「まじすか、なんすか……肉のフルオーダーカット……?」 何その夢のあるパワーワード…… その響きだけでよだれ出そう♡ 「おいおい、本当に君って奴は。それセックスしてるときと同じ顔なのわかってる?」 「はぇ!?」 「目が潤んで頬が赤くなってちょっと口が開いて……最高にエロい顔だよ」 「や、やめてくださいよ!」 俺は慌ててよだれを拭った。(リアルに垂れてた) 冗談きついんだよ、さっきまで100日記念とか言ってた乙女はどこいった! 「あはは!俺は奏太のこと食べたくなってきたよ。キスしていい?」 「き、聞かないでくださいよいちいち」 「じゃあ……」 課長の顔が近づいてきて唇が重なる。 まじでいい男だよなぁ、俺の彼氏は。なんで俺のことなんて好きなんだろう? ぼんやりしていたらソファに押し倒されて、課長の大きな手が俺の腹を撫でていく。そのまま手は上へと滑り…… 「暁斗さん……」 「好きだよ、奏太」 名前を呼ばれながら乳首を摘まれる。乳首なんて触られて感じるようになったのは完全に課長のせいだ。 「あっ……俺もです……」 課長の温かい舌が俺の舌にぬるっと絡みついた。女の子の小さくて薄い唇にキスするのとは違って、厚みのある舌と大きな口で包み込まれるようなキスに俺はハマりつつある。 あーきもちぃー……自分よりデカい人に包まれるのって安心するしなんか慣れるとすげー良いな? 乳首をいじられながらキスされて俺の股間にはしっかり熱が集まっていた。 「ベッド行こう、奏太」 「やだ……ここでして……」 結局俺たちはベッドまで我慢できずにソファでしてしまった。 課長はリビングでするのを渋ったけど、俺が足を絡ませて離さなかったのだ。 もちろんその後はベッドでめちゃくちゃ泣かされた。 〈完〉 ーーーーーーーーーーーーー というわけでチョロすぎる奏太無事陥落でございます。 少しでもクスっとしてもらえていたら幸いです♡ この後は番外編で課長視点の話を載せます。

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