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第20話 プレミアチケット(1)

「森宮くん、何かいいことでもあった?」 「えっ……?」  白鳥に施術をしていると、不意に問われて碧は頬が熱くなった。お客様にこちらの機嫌を悟らせるなど、プロとして失格だ。いつも同じ姿勢での接客を心掛けて、安心感を与えることこそが基本なのに、と碧が反省すると、白鳥は「ごめん、今日の森宮くん、何か楽しそうだから、つい」と苦笑した。 「そ、そうでしょうか?」 「うん。言いたくなかったら、別にいいよ。君の機嫌がいいと、私も嬉しいってだけだから」  言われて、碧は黙っているのも変だと思い、武彦との映画館での馴れ初めを話した。新しくできた友人のことを語ると、白鳥は羨ましそうに言った。 「大胆だね。いきなり映画館で手を握ってくるなんて、私でもできないよ。剛の者だね」 「あれは相当寝ぼけてたみたいです。あとでものすごく恐縮されましたから」 「だろうなぁ。いや、恐れ入るね」  羨ましいなぁ。若いっていいねぇ。と白鳥は続けた。  碧が他店から移動してきた経緯を、当然ながら白鳥は知らない。加えて、六本木店の店長から直に引き抜きの話がきたことから、実態はともかく、栄転だと六本木店の者たちは思っているようだった。その実、良かれと思ったことが裏目に出てしまった事実は、碧にとって大きなショックだった。  誓ってオフに逢ったり、プライベートな連絡先を交換しあったことはない。ただお客様のためにできる限りのことをしたいと思い、接客していただけだった。  従って、碧に瑕疵はないと判断されたわけだが、こういう商売をしている以上、はからずも期待を持たせてしまったことを、碧は深く後悔していた。

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