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第23話 試写会(2)
試写会の当日、指定されていたのは中央寄りのスクリーンのよく見える上席だった。ひとりで映画を観るのは久しぶりだという緊張感とワクワクで、碧はともすると主題歌の鼻歌を歌ってしまいそうになるほどテンションが上がっていた。もしも武彦が一緒だったら、もっと楽しい想い出になったかもしれないが、全てを見逃さないように、全部観て帰ろう、と思った。
「隣り、いいですか?」
「あっ、失礼しました……えっ?」
パンフレットを読んでいると、傍らの男性に声をかけられた。肘掛けから少しはみ出てしまっていたかもしれない、と碧が身体を立て直すと、左隣りの席に見覚えのある壮年の男性が座った。
「白鳥……さん?」
「やあ。実は仕事に空きができてね。もう一枚、チケットがあったのを思い出したんだ。きみの隣りに座れて良かった」
白鳥は、今日は少し重めのフレグランスの匂いがした。
「あ、あの……では、どなたかお連れの方は……?」
狼狽した碧の不安を払拭するように白鳥は肩を竦めて笑んだ。
「実は、きみをストレートに誘ってもこないだろうと思って、ひと芝居打ったんだ。驚かせて悪かった」
「い、いえ。それは、びっくり、しましたけど……」
会話をしていると、場内アナウンスが入り、開始ブザーとともに照明が落ちる。
「話は映画のあとで」
そう耳打ちすると、白鳥はそれきり何も言わず、スクリーンに集中しはじめた。
碧もわずかな混乱を残しながら、次第にはじまるストーリーに飲み込まれていった。
エンドロールが流れる頃には、碧は思わずぎゅっと左手を握りしめていた。いつもと勝手が違うな、と思いながらも観た『グッドマン』の最新作は素晴らしい出来だったのだ。早くこの感動を誰かと分かち合いたい、という気持ちが大きく膨れ上がってゆく。
壇上には監督のテオドア・ゴールマンが立ち、簡単な挨拶と質疑応答を挟んで、客席の反応に監督自身も確かな手応えを感じているようだった。
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