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第24話 試写会(3)
「すごかったね。私は先日、やっと全部シリーズを見終えたんだが、今作が一番好きだな」
白鳥の言葉に、碧もまた熱くなった心をどうにか鎮めようとしながら傍らを振り返る。
「はい。本当にすごかったです。シリーズ十作、全部観てくださったなんて、僕も嬉しいです……!」
プレミアチケットのおかげでいい場所で観られた試写会の興奮が抜けず、白鳥に飲みに行かないかと誘われた碧は、断りきれずに最寄駅からほど近い場所にある商業ビルの地下へとついて行った。
早く武彦に感想を話したい、と思いながらも、この余韻を分かち合う人が身近にいることを幸運に思った。
「すごかったです。最高でした。面白かった。待ってて良かった!」
階段を下りながら手を握りしめて言う碧に、白鳥は悪い笑みを浮かべた。
「別にネタバレするように話してもいいんだよ? 私はきみの友人じゃないんだから」
「でも、今から練習しておかないと、うっかり喋ってしまいそうで……そしたらきっと怒られるし」
「義理堅い性格だな。私ならネタを小出しにして、虐めるぐらいするけどね」
「あんな展開になるとは思わなくて、びっくりしました。さすがゴールマン監督です」
「あの悪役、かっこよかったよね」
「はい! すごく良かったです……えっ?」
鉄製の重たいドアをくぐり抜け、中に通されるまま従った碧は、話に夢中になっていて、その店の空気に気づくのが遅れた。
「っ……」
落ち着いたウッドベースの店内は、ピアノのジャズがかかっており、間接照明だけなのに適度に明るかった。
「座ろうか?」
「あ、は、はい……」
だが、奥の止まり木に腰を下ろしたところで、碧はこの店が普通の店と少し違うことに気づいた。気のせいかもしれない、もしくは白鳥が何か間違ったのかもしれない、と思ったが、急に碧が帰ると言い出すのも失礼だし……と気を揉んでいると、白鳥の二つ隣りの席に、見知った顔を見つけた碧は、固まった。
(……武、彦……?)
それはサマーセーターを着た、武彦だった。連れがいて、派手な容姿の男性と手を握り合っているのが見えた。碧は咄嗟に息が乱れるのを感じた。
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