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第25話 試写会(4)

 こんなところで逢ってしまうとは、運がないと思った自分を、碧はその直後、すごく傲慢だと感じた。  碧の感覚が確かなら、白鳥が選んだこのバーは、同性愛者の溜まり場だ。もしかするとミックスバーかもしれないが、少なくとも雰囲気からして男性専用の店だとわかる。行くことがなくとも、こういうことはだいたい雰囲気でわかるものだ。  白鳥と碧が止まり木に座ると、コンソメスープが出てきた。  白鳥と話そうとすると、顔を向けた先に武彦が視界に入ってしまう。武彦は碧を一瞥しただけで、すぐに背を向け、二度と振り返ろうとはしなかった。 「何がいいかな。適当に頼んでいい? きみ、あんまり強くないんだっけ?」 「あ、はい……」 「じゃ、彼にシャンディーガフと、私にはいつもの」  初老のバーテンダーに頼む態度から、ここが白鳥の行きつけなのだとわかってしまう。足元から後悔が這い上がってきて、碧が俯くと、白鳥が声を落とし、囁いた。 「きみは、こういうところには来ないタイプだと思ったから、一度連れてきておいてみたかったんだ」  言われて、やっぱり、と思う。  同時に、どうして、とも思った。 「白鳥さんは、結婚してらっしゃるのに……」  裏切られた気持ちが前に出すぎて、ちゃんと喋れているのかわからない。 「このリングは女性除けだ。私は独り身だよ。ついでに、こっち側の人間だ。でも、きみを取って食ったりはしないから、安心したまえ」 「じゃあ、どうして……」  胸の奥がじくじくした。あまりにも突然のカムアウトに碧がついていけずにいると、白鳥にもそれが伝わったのだろう。酒がくると、グラスに指を這わせ、「ひとつだけお願いがある」と言われた。

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