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第9話 背中の痕 其の三

「……え……なん……で……?」  香彩(かさい》)が辿々しい口調で言う。  竜紅人(りゅこうと)が触れさせた、手の平の内にある彼の雄が更に熱くなったような気がしたのは、自分の体温が移ってしまった所為だろうか。  そして香彩の手の甲を、自身の雄ごと握る竜紅人の手もまた熱く、それは彼の背中にも広がっていくように感じられる。  少し戸惑った様子も見せながらも、香彩は竜紅人のその熱さに魅了され、虜囚にならざるを得なかった。  まるで心の中に張っていた糸をようなものを、じっくりと炙られて、溶かされていくかのような、そんな熱だった。 (……僕だけじゃないのかな……?)  そう、欲しいと思うのは。 「……こうならないように、水を浴びてきたんだけどな……儘ならないな」 「えっ……」  少し艶を帯びた息と掠れた声が、頭の上から聞こえてきて、香彩の胸がどくりと脈打った。 「……お前の舌を背中で感じて、甘い息を吹き付けられて、何も感じないと思うか? お前がどんな表情で引っ掻き傷を舐めて治していたのか、見えなかったのが残念なくらいだ」 「……っ!」  その言葉に気を取られたその一瞬を狙って、竜紅人が香彩の片腕を引っ張りながら、身体を横へ滑らす。  前のめりになる香彩の身体を、いつの間にか顕現させた竜の尾で器用に抱き止め、竜紅人は上掛けごと横抱きにした。  香彩は何も言えないまま、きょとんと竜紅人を見ていた。一瞬何が起こったのか、分からなかったのだ。  竜紅人の背中にあったはずの身体が、ほんの少し引っ張られ、竜の尾で抱き止められて、たいした痛みや衝撃のないまま、体勢を変えられて横抱きにされていた。  まるで化かされているかのようだと、香彩は頭の隅でそう思うと同時に、視界の端に映る、ゆらゆらと揺れる尾に感じた劣情を、そちらへと追いやる。    くつくつと竜紅人が、そんな香彩を見透かすように笑った。人形(ひとがた)のまま、内へ収納する気のない尾が、香彩の頭上辺りから足の方へ移動し、特に何をするわけでもなく、ゆらゆら揺れている。  それに気を取られて。  竜紅人が唇を、耳元へ寄せていたことに、香彩は気付かなかった。 「……お前が迷惑じゃなければ……湯殿で鎮めてくれないか? 香彩」    そう言葉を吹き込まれて、香彩の身体はびくりと跳ねた。  わざわざ『迷惑』という言葉を使ったのも、一緒に湯殿に行って、この昂った身体を鎮めて清めてほしいと、素直に言えない自分に対する仕返しだろう。 (──……って言えないよそんなの……!)  香彩は竜紅人から視線を反らせながら、無言でこくりと頷いた。  顔が、熱い。  そして耳までも熱い気がする。  くすりと竜紅人の笑う声が聞こえたと思いきや、すっと抱き上げられて、香彩は思わず竜紅人の首筋を抱き締めた。 「……りゅう……っ、待って…まっ……!」  抱き上げられた刺激で、後蕾からどろりと竜紅人の熱が溢れ出す。  それは上掛けを通り越して、竜紅人の下腹部から下袴辺りに、染みを作っていくのが分かってしまって、香彩は思わず声を上げた。 「……っ、あっ……ごめん……ごめんなさい……っ!」  卑猥な音を立てて後孔から溢れ、想い人を穢す熱があまりにも恥ずかしくて、香彩は竜紅人の首筋に抱き付き、感情のままに言う。 「……っはっ……ぁ」  いたたまれず恥ずかしいと思うのに、後蕾から溢れ、太腿へ流れていく熱の感触に、香彩は竜紅人の首筋に埋もれながら、堪らず熱い息と艶声を上げた。 「……かさい……」  宥めるような接吻(くちづけ)が、香彩の髪に、耳に、そして白い首筋に落ちてくる。 「……責任持って綺麗にするから……一緒に行こうな、湯殿」  それは今までで一番優しく、そして一番低く熱の籠った、竜紅人の声だった。  

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