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第17話 湯殿 其の五★

 それを堪能しているのか、奥まで入っても竜紅人(りゅこうと)はしばらく動こうとしなかった。    甘い声で強請ってみれば、彼は香彩(かさい)の前髪を掻き上げて、露になった額に接吻(くちづけ)ながら、ゆっくりと腰を引いた。 「……ぁ……」  やがて訪れる快楽に、気の遠くなるような期待感が生まれて、香彩は鼻にかかった声を漏らし、目を瞑る。 「──っっっっ!」  一気に奥まで貫かれる熱に、全てを彼に持っていかれた気がした。  全身を支配する、声も出せないような深い快感に、内腿が痙攣して震える。  無意識の内に彼の雄を強く締め付けたのか、竜紅人が再び動きを止めた。  まだほとんど何もされていないというのに、余程熱が溜まっていたのだろうか。香彩は胎内(なか)で達してしまっていた。 「……やぁ……なん……で……」  奥までたった一度、突かれただけだというのに。  戸惑いながら泣き言のような声を漏らす香彩に、竜紅人がくすりと笑う。そして先程の緩やかさが嘘のように、一度抜いては一気に奥まで突き入れた。 「……ひ……っぁ……」  達したばかりの身体には強すぎる快楽に、蓋をされたはずの陽物からは蜜が溢れる。  突き上げるような動きで腰を使われ、急に揺さぶられて、香彩は甲高い悲鳴を上げた。     それさえも耳に心地良く、竜紅人は知らず知らずの内に、補食者の笑みを浮かべる。  思わず仰け反った香彩の白い首筋に、甘い痛みが走る。それはやがて鋭い痛みに変わった。  痛みの声を上げる前に、噛み付くように唇を奪われる。  より一層奥まで突き上げられ、香彩の腹が竜紅人の形を浮き出させるほどに、腹側に擦り上げて奥の奥まで犯された。  胎側の、香彩が悲鳴を上げ、頭を振っていやいやと言う場所を擦っては突かれれば、ふるりと痙攣して再び胎内(なか)で果てる。  ぼぉうとした目をして余韻に震える香彩に、竜紅人はわざと聞くのだ。  『気持ちいいのか』と。 「……はぁぁ、っ、いい……ん、きもちいい、からぁ……っ!」  堪らないのは香彩だった。   さすがにもう限界だった。  なのに竜紅人の動きは容赦がない。  もう力が入らないことを承知で、追い込んでは時折責める手を緩めてくる。わざとゆっくり引いて、追い縋るような中の締まりを確かめるような動きをする。  性質が悪いと香彩は思った。    深くより深く繋がった状態で、竜紅人は艶声を上げる香彩の唇を食む。  ひとしきり舌を絡め合うと、彼は僅かに上体を上げて身を引いた。  繋がったまま、見つめ合う。  動きを止めたその身体。  お互いの忙しかった呼吸が、少しずつ落ち着いてくる。 「……りゅう……?」  不自然な沈黙に訝しんで、香彩がそう呼びかければ、ふいに竜紅人の表情が変わった。  それは幸せそうなのに、どこか苦しそうで。  笑んでいるのに、泣きそうで。  手を伸ばして香彩は、彼の頬に触れる。  どうしたの……? と、吐息のような声で彼に問いかけた。  竜紅人は香彩の手を包み込むと、少し顔を傾けて手のひらに唇を寄せる。  再び合う視線は、今まで獣のように責めていたとは思えないほど、揺らいでいて。 「──夢じゃ……ないよな」 「……え?」 「こうも……自分の願望ばかり叶ってしまうと、あの夢の続きを見ているような気になってしまう」  竜紅人の言葉に香彩は、ああ、と納得する。  彼は言ったのだ。  想いが通じてからの初めての接吻(くちづけ)を交わしたあと、彼の腕を下敷きに押し倒されて抱き締められて。  そして言ったのだ。  ──夢の続きみたいだ、と。  香彩は夢じゃないと、(いら)えを返した。それで終わったのだと思っていた。  より深く繋がってしまうと分かっていながらも、香彩は竜紅人の頭を引き寄せて胸に抱き締めた。 「夢じゃない……夢じゃない……から」  あの時と同じ言葉をかけながら、竜紅人に気付かれないように、握りしめられたままの手に、ほんの僅かな『力』を発動させて、香彩は『()』る。  彼が囚われている夢を。

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