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第45話 悪戯の代償 其の二★

 ぬちゃり、ぬちゃりと音を立てて、竜紅人(りゅこうと)の先走りを蕾に塗り付けられても、受け入れられないとばかりに、蕾はきゅっと固く窄まる。それなのに兆しを見せている陽物が、竜紅人の腹の辺りに(こす)れ、蜜で濡らしてしまうのが恥ずかしくて堪らない。  今更になって思うのだ。  欲を持って竜紅人に触れたわけではなかった。だが彼の言う通り、触れている内に竜紅人の手を思い出してしまったことは紛れもない事実だった。  それを『いやらしい悪戯』だと竜紅人が言ったことに対して、この身は些細な抵抗をしたいと思ったのか。身体は心に忠実になって、竜紅人の雄を優しく跳ね返す。  悪足掻きとも言える可愛らしい弾力に、竜紅人が面白そうに、くつくつと笑った。 「……言えよ、かさい。今すぐ俺が欲しいって」 「……っ」  香彩(かさい)は口を噤む。  荒くなる息すら、竜紅人に聞かれてしまうのがいたたまれなくて、唇を噛んだ。  だがそんな香彩の態度とは裏腹に、香彩の身体からは甘い香りが漂ってくる。それは身体の熱と共に変化する『御手付(みてつ)き』の証、竜紅人のものであるという証の香りだった。  本当は求めているのだと、欲しいのだと、身体が言っているようなものだ。  竜紅人にも、伝わっているはずだった。  だがそれだけでは彼が満足しないということは、昨夜だけでもう充分に分かっていた。 「……言わないなら、言わせるまでだ。かさい」 「んっ……」  耳輪(じりん)を口に含んで舌を這わせながら、低い声でそう言った竜紅人に、ある種の物騒さを香彩は感じる。  もしこの遣り取りを(りょう)が見ていたのだとしたら、きっとこう言ってくれただろう。  学習能力がない、と。  竜紅人の身体が動く。  何を、と思う暇もなく、香彩は上体を竜紅人によって起こされた。  そして竜紅人は仰向けで寝そべりながら、自身の身体を下へずらす。 「──……っっっっ!!」  香彩は言葉を詰まらせた。  あまりの恥ずかしさに、出てくる言葉もなく、顔を赤らめる。  竜紅人の伽羅色と視線が合うがそれは、香彩の眼下だ。  毅い視線と今の自分が置かれている状況に、思わず逃げ出したくなって腰を浮かせるが、太腿と腰を掴まれてそれすらもかなわない。いたたまれなくて視線を逸らせば、楽しそうに笑う声が聞こえてくる。  香彩はまるで、竜紅人の顔を跨いで座るような体勢を取らされていたのだ。 「この体勢……ゃぁ……っ、りゅ……!」  どうしようもなく恥ずかしくて、香彩は身を震わせた。  逃げ出したい。  ここから逃げ出してしまいたい。  せめてこの体勢をどうにかしてほしい。あとはもう何も文句は言わないから、このとんでもなく恥ずかしい体勢を、もうどうにかしてほしい。  そんなことを心に思った刹那、内腿に熱い息が掛かって、羞恥から熱が頬に登ってくるのを、嫌でも感じた。  無駄だと分かっていても、香彩は腰を浮かそうとする。だがやはり太腿と腰を、押さえ付けるように掴まれてしまっては、どうすることも出来ない。  せめて竜紅人の顔に、下半身を付けてしまわないようにと足に力を入れるが、むしろ隙間をあまり作るなとばかりに両手で引き寄せられて、香彩は唇を噛みしめる。  逃げられない。  そして竜紅人もまた、逃がしてくれないことは分かっていた。  ──……言わないなら、言わせるまでだ。かさい。  あの言葉の結果がこの体勢なのだとしたら、竜紅人は決して自分を許しはしないだろう。  もしいま彼を求める言葉を言ったところで、竜紅人が納得するとは思えない。  彼が満足するまで続くのだ。  そう思うと言い知れぬ羞恥の情に駆られるが、同時にぞくりと粟立つものを感じてしまい、香彩は信じられないとばかりに(かぶり)を振った。  既に快楽を覚えさせられた身体は、竜紅人の吐息、手付き、舌、体温に至るまで、従順に素直にそれを拾おうとする。 (……接吻(くちづけ)をされていたなら、唾液の所為に出来たのに)   不意に昨夜のことを思い出す。  あんな風に乱れて、竜紅人の身体に酔い痴れて、恥ずかしいことがたくさん言えたのは、きっと真竜の体液の所為だと香彩は思っていた。  真竜の体液には催淫の効果がある。そして神気もまた体液ほどではないが、同様の微量の効果と酩酊感を伴う。  煽ったり煽られたりしながら、蒼竜をも受け入れることが出来たのは、これでもかとばかりに与えられた催淫の唾液と、包み込む神気に酩酊し、身体が蕩けるほど熱くなったからだ。  だが今は。  唾液も与えられていなければ、竜紅人の神気も抑えられているのか、包み込むような熱さをあまり感じない。  先走りの溢れる雄を後孔に擦り付けられているが、閉ざしたままの固い蕾は、体液を受け入れたわけではないのだ。  だから竜紅人の所為には出来ないのだと、香彩は脊髄に鳥肌が立つような悦楽を感じながら、認めざるを得なかった。  自分は自らの感覚で、身体の熱を高めて、竜紅人から齎される快楽を全身で、五感全てで広い集めて感じ取ろうとしているのだと。  

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