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第50話 拠り所 其の一

「あ……」   高く腰だけを上げた体勢のまま、後孔から名残惜しそうに竜紅人(りゅこうと)の雄が引き抜かれていく。蕾に引っ掛かけるようにして、ようやく竜紅人の全てが吐き出された刹那、香彩(かさい)は物欲しそうな吐息混じりの声を上げた。  剛直を受け入れていた蕾は、竜紅人の雄形(かたち)のまま口を開けている。そこから紅に充血した淫らな華が見え隠れし、やがて胎内(なか)に注がれた竜紅人の熱が溢れ出した。  それは未だに自分の力で閉じることの出来ない後蕾から零れ、形の良い綺麗な白い脚に幾筋もの線を描いて、やがて敷包布へと滴り落ちていく。  その何とも言えない感覚と、事後のまだ冷めやらぬ熱と相俟って、竜紅人に対して高く腰だけを上げて、臀部を見せている体勢だというのに、頭の中がぼぉうとして何も考えられなかった。 「……」  無言のまま竜紅人が、香彩の白くて丸い白桃のような(いざらい)に口付けを落とす。 「んっ……」  それだけでは物足りなかったのが、まるで果実に(かぶ)り付くようにして、(いざらい)の一番肉付きの良い所を甘噛みされれば、香彩の唇からは甘い吐息が漏れた。 「……少しそのまま、待ってろ香彩」  果たしてそのままとは、と熱に浮かされた頭の隅でそんなことを思う。  竜紅人の体温が離れたと思いきや、部屋のどこかで水音がする。  一体何をしているのだろう。  ふわふわとしていた頭がはっきりと覚醒したのは、蕩け切った後蕾に再び指が埋め込まれてからだった。 「──……っ、ちょっ……ん、りゅうっ……!」 「掻き出すだけだから、じっとしてろ。前みたいな目には遭いたくないだろう?」  「……っ」   前みたいな目、という竜紅人の言葉に、香彩は言葉を詰まらせる。  彼の熱を胎内(なか)に残したままにしていると、竜紅人の気配……神気と反応して、やがて濃厚な媚薬と化すのだ。  熱くて疼いて堪らなくて、竜紅人の名前を呼びながら、自分で掻き出し慰めた過去を思い出して、香彩は顔を赤らめる。  そして昨夜は竜紅人の手によって二度、掻き出された。恥ずかしさは、昨夜の方がまだましだったかもしれない。そう、竜紅人から(もたら)された様々な悦びによって、意識は朦朧としていたのだから。  目合いを伴わない、ただ掻き出すという行為は、どうしてこうもいたたまれないのか。  今にも再び上げてしまいそうな、あられもない声を、香彩は奥歯を噛み締めて堪える。  昨夜の時と比べてはっきりとしている意識は、竜紅人の指の動きを容易に脳へと伝えてくる。  いま、どの指が何本、挿入(はい)ったのか。  胎内(なか)でどんな動きをしているのか。 「……んっ」  掻き出す指先の些細な仕草が、時折、胎内(なか)の凝りを刺激する。  敷包布に顔を(うず)めるようにして、香彩は甘い声と息を吐き出した。      そうしてる内にも、竜紅人の指によって掻き出された彼の熱が蕾から溢れる感触に、香彩は身を震わせる。  やがてほぼ出し切ったのか、竜紅人が固く絞った布巾で、香彩を拭き清めた。先程の水音はこれだったのかと頭の端で思う。陽物に始まり、(いざらい)から蕾、太腿を丁寧に清められるその感触は、恥ずかしいと思いながらもどこか懐かしくて、香彩は戸惑う。  全て終わったのを見計らって、香彩は身体の力が抜けるかのように、くの字に寝転がった。  然り気無く、香彩の頭の下に逞しい竜紅人の腕が敷かれ、気付けば腕まくらをされている体勢だ。  視線を上げれば、どこかばつの悪そうな、だがとても優しげな伽羅色とぶつかる。 「……大丈夫か? 少し、乱暴だったな」  すまない、という竜紅人の言葉に、香彩は軽く首を横に振った。 「……大丈夫だよ、竜紅人」  ほら今回はちゃんと意識あるし、と香彩が言うと、まるで慈しむような接吻(くちづけ)が額に降りてくる。  目蓋に鼻梁に、そして色付いた唇に触れるだけの、真綿のような優しい接吻(くちづけ)は、心までも蕩けてしまいそうだった。  接吻(くちづけ)は軽く肌を()むようにしながら、白い首筋を行き来する。  くすりと笑ったのを、どうやら竜紅人に聞かれてしまったのか。腕まくらをしていた腕を、頭を打たないようにと、彼がゆっくりと引き抜く。 「ん……」  気付けば竜紅人は香彩の首筋に顔を埋めていた。耳裏を軽く吸われて、舌を這わせつつも、時折優しく食む。そんなことを繰り返しながらも、竜紅人の唇は少しずつ少しずつ下へ降りてくる。  戯れのつもりなのだろうと香彩は思った。  何故なら竜紅人の身体は、香彩の横で寝そべったままだからだ。  もしも本格的に二回目を始めるつもりなら、逃げられないようにその身体で足を割り開くだろう。  時折熱い吐息の洩れる竜紅人の唇は、やがて鎖骨を這う。骨と肉と皮膚の、こりっとした動きを楽しむように、軽く歯を立てられれば、思わず艶めいた声が香彩の唇から溢れる。  やがて唇は鎖骨の中心の、少し下辺りに辿り着いた。 「りゅ……そこ、吸って」 「……ここ?」 「うん……っ」  その場所は衣着の合わせの部分で丁度見えず、またほんの少し指で崩せば見えてしまう様な、そんな位置だ。 「……蒼竜も竜紅人だよって言っておきながらあれだけど……でもやっぱり人形(ひとがた)の竜紅人に会えないのは寂しいから、ここに痛いほど残してほしい。唇痕って蒼竜、残せないよね。だから……それ見て寂しいの我慢する」

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