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第76話 朝のひととき 其の二
眠っている蒼竜の神気に反応し始めたそれは、徐々に熱くなった。いつもなら堪らない悦楽となるそれは、やはり無理をした所為なのか、媚肉が蠕動すると快楽と同時に、腹を胎内 から殴られるような鈍痛を感じる。香彩 は無意識の内に腹を手で押さえ、やがて痛む部分をゆっくりと撫でた。
そうしていると痛みは、ほんの少しだが和らぐ。だが蒼竜の神気に身体が反応してしまえば、どうしても痛みはぶり返してしまう。
蒼竜から離れて、洗い流してしまうのが一番良いのだ。
そう思って香彩が蒼竜から離れようとすれば、いつの間にか竜の尾にふわりと抱き締められた。
「……りゅう?」
呼べば、丸くなっていた身体から蒼竜が頭を持ち上げる。香彩の掌に収まってしまいそうな、小さな頭だった。
蒼竜は何やら小さく唸ると、尾毛を香彩の腹に擦り付けるような動きをした。ふさり、ふさりと音を立てて、幾度かそれを繰り返すと、あれだけ感じていた胎内 の痛みが綺麗に消える。
『……無理をさせた。すまない』
蒼竜の深翠の瞳が、ゆらりと揺れた。
その姿に愛らしく堪らないものを感じた香彩は、口吻の先端に軽く接吻 を落とす。
『……っ!』
「治してくれてありがとう、りゅう」
『他に……痛むところはないか?』
優しい声色が頭の中に響いて、香彩は蒼竜に微笑んだ。
「うん、大丈夫」
そう言って蒼竜から離れようとした香彩だったが、香彩を抱いていた竜尾が、ぎゅっと身体を締める。
「……ん」
仕返しとばかりに蒼竜の長い舌が、香彩の唇を軽く舐めた。瑞々しくもどこか美味しそうな薄桃色した舌に、香彩は己の舌を伸ばし、絡ませる。じゃれ合うような接吻 を交わして、ようやく蒼竜から解放された香彩だ。
『湯、使うだろう? ここの使っていけよ香彩』
「……え?」
『え……って、何処の使う気だったんだお前は』
「ゆっくり歩いて六層目の湯殿へ行こうかと思ったんだけど……竜紅人 の部屋って、湯使えるところあったっけ?」
『──お前なぁ……。覚えてねぇ? 昔、一緒に入ってただろうが』
「あ、あれ? でもあれって一層の大浴場じゃ……」
ふるふる、ふるふると蒼竜が頭 を振って、深くため息をついた。
中枢楼閣の最上階六層目には、『司 』の付く役職及び、それ以上の位の者だけが入れる専用の禊場がある。
『司』の付く位になると、政務室の隣に設けられている私室で日々を過ごす者が多い。非番の日に楼閣外にある自分の屋敷に帰る者もいるが、大体が私室で暮らしを営んでいる。
そういった者達の為に作られたのが、禊場だった。
だが三層目から下の『司』の付く役職の者は、上階に上がるのが面倒なのか、一層目の食事処へ行くついでに隣の大浴場か、もしそこが混んでいたら城外の大衆浴場へ足を運ぶことが多い。
またいつ誰が入ってくるともしれないそれを嫌い、私室に簡易だが湯殿を作る者もいる。
竜紅人も例に漏れず、上に上がるのが面倒と、一層の大浴場を使っている印象が香彩には大きかった。だから昔、一緒に入っていた時も大浴場だと思い込んでいたのだ。
『……まぁ、六層目の禊場は鍵が掛かるから、そっちもよく使ってたけど、こっちに簡易の湯殿を作らせてからは、ほとんどここの湯殿だっだぞ、香彩』
「……うそ……覚えてない」
『まだ小さかったからなぁ。覚えてないもの無理はないか。……で? かさい』
「ん?」
蒼竜の自分を呼ぶ声が一段、低くなった気がして、香彩はきょとんとした目で彼を見る。
ふと離すまいとばかりに香彩の身体を抱き締めていた竜尾が、しゅるりと音を立てた。
「……ひぁ……っ……!」
器用にも尾の先端で臀 の谷間を撫でられて、香彩は思わず声を上げる。早朝の爽やかな空気が包み込むこの場所に対して、あまりにも不釣り合いな艶声に、香彩は顔を赤らめながら、くっと奥歯を噛み締めた。
尾は何かを確かめるかように、臀 の割れ目を幾度か往復していたと思うと、その先端をぴたりと秘所に宛がう。
『……ここに湯殿があるって知らなかったとはいえ、俺が声を掛けなかったら……ここ、こんなに濡らしたまま六層まで歩く気……だった?』
「……りゅ……う……っ」
あ……、と声にならない声を香彩は上げた。
細い尾の先端が後蕾に入り込む。会陰の裏側をまるで押し広げるように、ぐいっと力を込められれば、何の抵抗もなく後孔は、はくはくと蕾を閉じては開かせた。
その隙間を、どろりとしたものが流れては筋を作る。太腿を伝うその感触に、香彩はこれ以上艶めいた声を出さない様に息を詰めた。
『……ほら、蕾 、ほんの少し刺激を与えるだけで、こんなに溢れてくる。こんな状態で階段なんて上ったら、足を踏み締める度に溢れるんじゃないか? もしもお前の階下に他の官がいたら、足首まで伝った俺の熱に気付くかもしれない。そんなの……俺が許すと思うか?』
更に低く、そして熱で掠れた蒼竜の声が、脳内に染み渡るように響く。
香彩は無意味だと分かっていても、目の前にいる、今は自分よりも遥かに小さい姿の蒼竜を、愛しくも憎らしいといった感情を持って見遣る。
愛しく思う人の一等好きな声が、脳内を駆け巡るこの何とも言えない狂おしさを、きっと竜紅人は理解していないのだと、香彩は心内で毒付くのだ。
そして愛し子のそんな感情などお見通しだと言わんばかりの蒼竜は、じとっとした目をして香彩を見上げる。
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